神楽と初期沖田
女の友情というものはそこらにある紙より薄っぺらく脆いものだ。一時はこの子とは何年たってもずっと友達のままだと思うくらいに一緒に居るのだが、どんなに気が合っていても男という生き物がそこに混ざれば、それは呆気なく崩れる。
現にあたしのクラスにも、二人で居ない日を見かけないくらい仲が良い子達が居たが、好きな男が被ったからといって、もう二人が一緒に居る事はない。
女は怖いと言うが、それが女というものなのだ。これが、普通なのだ。
なのに、この状況はなんなんだ。たった今目の前に居る女と好きな奴が被ったというのに、醜い争いには発展せず、むしろ応援するとかぬかしやがった。
これはつまり普通ではない。何がしたいのかさっぱりわからない。きっと裏があると必死で頭を働かせる。するとある結論にたどりついた。
この女はもしかして、所謂悲劇のヒロインぶりたいのではないのだろうか。あたしもあの人もお互い好きだから、私は大丈夫だから、と周りの同情を誘い、可哀相と言われたいのではないか。
そうしてそれをクラスメートの奴らに言い触らし、明日にはきっとあたしは悪女扱い。まあ、それはそれで構わない。好きなんだから仕方ないし、自分が譲ると言ったんだからこれであたしもこいつに気を使わないでいい。むしろこれは好都合だ。
馬鹿な女。無理矢理笑顔を造ろうとしてるのは誰が見ても分かるのに、あたしはあえて気づかないフリをして笑顔でありがとう、と口にした。
おかしい、本当におかしい。何がなんだか分からない。
今朝、教室に入ったら罵声の一つでも浴びるだろう、と思っていたのに誰も何もあたしに言わなかった。むしろいつも通り挨拶をしてきやがった。
なんでだ、言い忘れたのか。いや、そんな筈はない。悲劇のヒロインぶりたいのなら、あたしが帰ったらすぐにでも他の女友達に伝える筈だ。あいつに女友達はたくさん居るはずだし。
どんなに考えても、今回は本当に分からなく直接聞いた方が良さそうだ。だから机に呑気に突っ伏しているあいつに声をかけた。
「神楽、ちょっといい?」
「…総羅アルか。何ヨ」
「あんたは何がしたいの?何が目的なの?」
「…は?」
何を言ってるんだ、といわんばかりにマヌケな顔をする神楽にどうも調子が狂う。
これほど思考が読めない奴が今までいただろうか。
ため息を零せば、困ったような顔を浮かべた彼女がそこにいた。
「なに?馬鹿にしてんの?あたしを追い詰めて自分はヒロイン気取りするつもりじゃないの?だったらなんで言い触らさないのさ」
「ちょ、と待ってヨ。なにそれ…、私が総羅を追い詰めようとしてるってどういうことアルか…?」
「どういうこともなにも、じゃなきゃあたしの応援なんて出来ないでしょ」
「私はお前が好きアル。本当に大切だから幸せになってほしいと思っただけヨ」
「それがおかしいって言ってんの」
「何がおかしいアルか?おかしいのは総羅のほうネ。私、今まで総羅にそんなふうに思われてたアルか?………ッ、」
「ちょっと、なんで泣いて…、」
「…総羅と好きな奴が同じ事より、好きな人を諦める事より、総羅にそんなふうに思われてた事が一番、…悲しいアル」
昨日の様に無理矢理笑顔を造った彼女をまたあたしは気づかないふりをした。
友情の価値観
(やっぱりあたしはあの子みたいになれやしない)
2012/04.13
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