「ねえ、」
「ねえってば」
目の前の少女は鬱陶しそうに一瞬だけこちらを見て、視線は合わさないままなに、と呟いた。
俺はニコニコと笑顔を崩さないままなんで、と口にする。主語が足りない、とまた少女は視線を合わさないまま先ほどより少しばかりきつい口調で言い放つ。
彼女は俺が何について問い掛けてるのか知っている筈なのに、知らないフリをする。なんてずるい女なんだ。
情けない事にこの少女に振り回されるのは、結構慣れたものでいちいちそんな事にじれったさなんか感じていたらキリがない。
だから言い放ってやった。
「俺達って付き合ってるんだよね?」
数秒過ぎてから、信用性が無くなってしまうほどに小さく頷く。なんでそこは堂々と返事をしないんだ、とか言いたい事は山ほどあったけど今はそれに時間を費やす暇はないので全て胃の中に押し込んだ。少女はまだ目を合わさない。
「じゃあさ、なんで俺達手も繋がないの?」
「…」
「なんでキスもしないの?」
「なんでデートもしないの?」
「なんで、」
「好きって言ってくれないの?」
少女の長い睫毛が下を向く。俺の質問攻めに疲れたみたいだ。
はあ、とため息が聞こえる。何一つ答えようとしない総羅にいい加減イライラぐらい溜まってくる。ねえ、強い口調で急かす様に言えば少女の肩が小さく震えた。
「あたし達は付き合ってるよ」
「うん」
少女は一呼吸置いてからゆっくり口を開いた。
「好き」
好きだと笑った君の目はどうも僕を映してなかった
(彼女の目の奥に潜むあの男の影を消せたらどんなに良いか)
2012/03.28
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