恋人ゴッコ | ナノ




「好きだよ」



目の前の男から吐き出された言葉は胸やけがしそうな程に甘ったるい言葉だった。ありがとう、と微笑んでこいつの恋人ごっこに付き合ってやる。
次に男の口から出た言葉は俺の事好き、と酷くどうでもいい問い掛け。こいつの望む答えを吐きつけてやるのがこの場面の正しい答えなんだろうけど、残念ながらあたしはもうこの男との恋人ゴッコ、というのには飽き飽きしていた。



「どうでもいい」



その後は面倒だった。数々の質問、怒り、それらを一気にぶつけられた挙げ句、縋り付かれた。その姿があまりにも哀れで、哀れで。縋り付いてきた手を振り払い笑顔でさよならを一方的にしてきた。



「恋人ってあんまりいいもんじゃないね」

「…今月だけで何回目よ、お前」



呆れた表情で話す幼なじみ。これも随分と見慣れたものだ。あの男に別れを告げたあとなんとなく幼なじみの家に寄った。これはいつもの事で、男と別れたら決まってこいつの家に行く。理由なんてない。



「だって恋人が居ると幸せって聞くから。でも作ってみたらコレよ。浮かれた奴らの言葉に耳を傾けたのが馬鹿だった」

「そりゃお前、好きでもない相手と付き合ってもな」

「土方は好きな相手しか付き合わないの?」

「逆になんで好きでもない相手と付き合わなきゃなんねーんだよ」



グラスにお茶を注ぎながら土方は笑った。確かに、と呑気に口にする。でもあたしだって本気の恋愛ができるもんならしたい。でもきっと当分無理だ。深いため息を零すと幸せが逃げるぞ、と有りもしない事を言われた。



「…、そっちは彼女サンとどうなんですかー」

「は!?いきなりなんだよ!!」

「その反応から見るとうまくいってるみたいですねよかったよかった」



顔を赤くして焦っている土方を存分にからかってからベッドにどかりと寝転ぶ。上から色々といちゃもんをつけられたけど知らない聞こえない。
そのまま瞼を閉じれば深い眠気が襲ってきた。おやすみなさい。



恋人ゴッコ
(こいつがあたし以外の誰かを愛しているうちは本気の恋なんて出来やしない)




2012/03.14