なあ、 | ナノ




最初はただ目で追ってしまうだけだった。でもそれはあいつがあたしの視線を集める様な馬鹿騒ぎをしたからだ。
話をするとたまに鼓動が速くなった。でもそれはあいつのする話があまりにも魅力的なだけだから。
あいつの言葉一つであたしの感情が大きく左右されはじめた。もう言い訳なんて見当たらない。とっくに気づいてたのに認めたくなくて。認めてしまったらあいつとは目も合わせられなくなってしまうだろうから。



「お前暇なら今日家来いよ」



あー、と小さく唸ってからすぐにごめんと零した。そうか、と笑った顔はあたしを見ちゃいなかった。
いつからだろう。あたしがあいつのお誘いを度々断る様になったのは。
当たり前の様に一緒に居た奴が急に"異性"というものに変わってしまったんだから戸惑っているんだ。逃げてなんかいない。ただ、戸惑ってるだけ。
なあ、と呼びかけられた声に鼓動が速くなる。ああ、まただ。勘弁してほしい。もうまともに会話すら出来ないのか。まだ一緒に居る時間が多いのか。また削るしかない、なんて考えながらなに、とあいつを見ないで言葉を返す。



「お前最近変だよな、俺お前になんかしたっけ」

「何を言うかと思ったら馬鹿馬鹿しい」

「お前には馬鹿馬鹿しい事でも俺には重要なの」

「土方クソヤローの話はつまんないんです」

「あー、そうかよ。男ができたのな」



ふい、と横を向いたあいつは今どんな心情なのだろうか。
ここはそうだよ、と言うのが得策なんだろうけど返事は出来なかった。
必死で絞り出した言葉はさあどうでしょう、という酷く曖昧なものだった。土方は一向にこちらに視線を向ける気配はない。
無言が気まずい。話題を変えようとワントーン高い声で楽しそうに昨日あった心底どうでもいいような事を面白おかしく言葉にする。返ってきたのは興味なんか全然ないって声での相槌。どんどん重くなる空気。あたしばっかり必死になって馬鹿みたいに思えた。だから口を閉じた。
無言が続く。毎週かかさず観てるドラマのことやら、気になる漫画やら必死になって今とは無関係な事を考えた。そうする事でどうにかこの息苦しい空気に堪える事が出来る。



「お前はさ、」

「なんだよ」

「…なんでもっと早くいわねーんだよ」

「は?」

「男出来たのに俺と帰っていいのかよ」



確かに曖昧な返事をしたのはあたしだ。でも男が居るなんて口にしてないのに勝手な勘違いをして、口調が荒くなる土方はなんなんだ。なんでそもそも怒って、あ。



「まさか、ヤキモチ妬いてます?」

「は、はァ!?なんで俺が…!」

「別にあたし彼氏なんていませんよ、まあ好きな奴はいますが」



最後の一言でぴくりと肩が揺れ目は左右に泳ぐ。誰が見てもわかるくらいな大きな動揺を見せたこいつにあたしは確信した。
途端今まで、こいつを避けてきていたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。だけどあたしはこいつに好きだなんて言う勇気もなけりゃそもそも言うつもりもない。
あんたから言うの。あんたから言うように仕向けるの。
だからこのまま誰が好きかなんて言わない。ずっと迷って溺れて窒息死すればいい。




なあ、
(「お前の好きな奴って」
「秘密ですー」
「………」)




2012/05.26




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