女神の囁き | ナノ


虐められ山崎と初期沖田




今日は何曜日だっけ。胃がキリキリと痛む。カレンダーに目を向ける。今日は月曜日か。また一週間が始まった。胃がキリキリと痛む。
行きたくないと身体が叫ぶ。だけど行かなければ逃げ出したと見なされもっと酷い目に合うのは経験済みだからなるべく避けたい。逃げ道なんてもともとどこにもありゃしないのに。
目覚まし時計がうるさく鳴る。それを止めて俺は地獄に向かう支度をした。





「で?借した金は?」

「借りた金はちゃんと返さないとだよ?」



席についたとたんあいつらが一斉に俺の机に群がった。もちろん俺はあいつらに金を借りた覚えなどない。下品な笑い声が耳から入り込み頭にがつんと響く。
言い返す言葉も勇気が足りず声に出せない。俺は下を向くことしか出来ないのだ。
助けを求めるかの様に周りを見渡してみた。お前となんて関わりたくないとでも言うようにすぐに視線を逸らされた。わかってたことなのに苦しい。胃が痛い。



「無視してんじゃねえよ!!」



さっきまでヘラヘラしていた筈の奴がいきなり怒声を上げ俺の椅子を蹴飛ばした。急な事で対応出来ずそのまま倒れ込む。
それを合図かの様にみんなが怒声を上げ囲まれて蹴られる。何度も、何度も。
汚いことに奴らは俺の顔には傷をつけない。いろいろと厄介だからに違いない。おかげで身体は痣だらけだけど。視界が歪む。何で俺がこんなめに、涙が出た。




帰り道、いつもの道を歩きながらボロボロのスニーカーに視線を落とす。もう嫌だ、なにもかも。このスニーカーも、弱い自分も、あいつらも、クラスの奴らも、全部、全部投げ捨ててしまいたい。
気づいたら俺は廃墟の前に居た。立入禁止とかかれた扉を開け中に入る。誰も入れぬ様にと扉にぐるぐると巻きつかれてたであろう鎖は既に他の誰かに痛々しく壊されていた。その鎖と自分を重ねてしまって吹き出す。
ボロボロの階段を上り屋上に着いた時にはもう空は赤く染まっていた。俺も今からお前と同じ様に赤く染まるんだよ、真っ赤にどす黒く。
冷たい風がびゅう、と吹く。さあこれで嫌な毎日からおさらばだ。逃げ道なんてないと思ってたのによく探したら見つかったよ。生まれ変わったら俺は何になるのか、なんて呑気に考えていた時だ。



「あんた、死ぬの?」



細く、高い声が聞こえた。でもその声は俺に自殺なんてやめろと言うわけでもなく、好奇心が含まれた声でもない。その声に感情なんて見つからず密かに恐怖を覚えた。
振り返って見ると少女が無表情でこちらを見つめていた。何でこんなところに女の子が、なんて思ったけど逆の立場から見たら俺にもその言葉が当て嵌まるような気がして口にはださなかった。
少女は俺の頭から爪先までじっくり眺めてからふーん、と声にする。



「結構酷いことされてるみたいだね」

「なん、で」

「そんだけワイシャツボロボロだと分かるでしょ」



初めて表情を崩した少女は驚く程に綺麗で。見惚れてしまった自分を恥ずかしく思い慌てて視線をそらす。
ねえ、とまた声をかけられる。



「イイコト教えたげよっか」

「あんたが死ななくても全てが綺麗さっぱり解決する方法!」



そんな魅力的な話を聞かない訳にはいかず俺は笑った少女の話を聞いた。

そうか、そうだったのか。何も悪くない俺が犠牲になる必要なんて最初から無かったんだ。曇った心が晴れ渡った気がする。
俺はいきいきとありがとう、と少女にお礼を言うと、少女はにこりと華やかに笑い小さく手を振った。それに俺は応えながら、もう二度と来ることもない廃墟を後にした。
こんな単純な事に気づかないなんて俺は馬鹿だったよ。何度少女にお礼を言っても足りない。



鳴り響く目覚まし時計。悩みだった胃痛も今は全くない。今日は火曜日。カレンダーの青と赤を悲しく思う。俺に土日休みなんていらないのに。

もう何も怖い者なんていなくて足どりも軽く学校に向かう。
いつもの様に集まって来た奴らに笑顔を振り撒きおはようの挨拶をする。不思議な顔をする奴ら。俺はこれから素敵な学校生活を送るんだからよろしくね。
鞄から銀色を取り出して魔法のスティックを使うように振ってみた。全てが変わる音がした。全てが変わる真っ赤な色が広がった。

楽しい楽しい学校生活。これで俺もやっと幸せになれる。



女神の囁き
(周りから聞こえる歓声がとても俺の気分をよくした)





2012/02.21



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