動機 「もしかしたらって、ありもしない事考えて」 「だからそういう行動は、」 あいつが口にした事全てが俺の胸に突き刺さった。あいつの後ろ姿からきっとまた泣いてる事も想像出来て。 頭で考えるより先に身体が動いていた。気づいたら彼女は俺の腕の中にいて、想像通り目を赤くし涙を流していた。 「ひ、じかたさ、」 「…期待していいんだよ、好きなだけ期待しろよ」 「ひじかたさん」 「だからもう頼むから…、俺から離れないでくれ…」 腕に力を込める。彼女をけして離すもんか、と強く抱きしめた。目頭が熱くなり、彼女の肩に顔を押し付ける。きっと弱いのは彼女も俺も同じなのだろう。 「離してよ…」 「離さねェよ!」 「馬鹿にしないでよ!!こんな思わせぶりみたいなのいい加減にしてよ!!こんなの辛くなるだけじゃんか…、」 声を張り上げて、ボロボロ泣く彼女を見るのははじめてで。こんな姿を絶対俺に見せないようにと彼女は何回苦しんだのだろうか。何回声を殺して泣いたのだろうか。考えるだけで自分の無力さに腹がたった。 だから離して、と俺の腕を振りほどこうとする彼女をまた強く抱きしめた。 「…思わせぶりじゃねえよ」 「何言って、だってあんたあたしを、」 「情けないけど、お前が居なくなってから自分の気持ちに気づいたんだよ…」 彼女の抵抗はなくなった。 深く息を吸い、彼女に1番伝えたかった想いを口にする。 「俺はお前が好きなんだよ」 心臓がバクバクと五月蝿く鳴る。こんなに自分の気持ちを伝える事が怖くて、不安になるものとは思わなかった。 緊張で手が震えた。情けないな、と聞こえた声にうるせー、と返す。 彼女は腕の中で小さく笑った。最低、と聞こえた声はどこか弾んでいて。 腹黒いあいつの事だ。きっとこの状況を楽しんでるに違いない。本当悪趣味な奴だと思う。 「あんたなんか嫌いだよ」 「うん」 「あたしの事振ったかと思えばさ、好きだとか勝手すぎるし」 「…ごめん」 「でも、」 嬉しいや、と笑った。やっぱり彼女には泣き顔なんかより何倍も笑顔が似合う。 つられて上がった口角に俺がどれだけこの少女に惚れ込んだのか良く分かる。 「遠距離になるよ?」 「関係ねーよ」 「たまにしか会えないよ?」 「待つのは得意なんで」 「馬鹿土方」 続けて泣き虫土方、と口にした彼女。言葉に詰まる。なんでこいつ知ってんだよ。そんな気持ちを知ってか知らずか彼女は、さっきも泣いてたでしょ、と。 つまりこいつには全て見透かされていた訳で。敵わねえな、と感じた。 「あたしはこれからあんたと会うのに理由なんか必要なくなるんだよね」 「おう」 「もう一緒に居ない様にしよう、って思わなくてもいいんだよね」 「思ったら殺す」 「ねえ、」 「あたし、あんたが好きかもしれない」 例えば突然前触れなんてなくて焼きそばが食べたくなったとか、ゲームがしたくなった、寂しくなった、泣きたくなったとか急にそんな風に思うことってあるじゃん。 でもそういうのってさ、大概しばらくしたら焼きそばが食べたかったのにやっぱりパスタがいいやって変わっちゃうよね。ずっとずっと寂しいとか、泣きたいとか思わない訳でしょ。 まあ要するに、違う感情にさっきまでの感情が掻き消されちゃうって事。 でも俺、可笑しいんだよ。お前なんか嫌いだったはずなのに。 こんなに愛おしく思うなんて。 (全ての動機はお前だから) 2011/11.30 ← |