不動 もうずっと鳴り響いている携帯に目をおとす。着信履歴は全てあいつの携帯でうめつくされていて。着信音が止まったと思ったらまた飽きずに鳴り響いて。 「飽きない奴…」 ため息と同時に涙もこぼれた。あたしなんかの為にこんなに一生懸命なんかにならないでほしい。きっとあいつは優しいからあたしを見過ごせないだけなんだろうけど、少しは期待だってしてしまう。 こんなどうしようもない勘違いが募って、勝手に嬉しいだなんて思って。本当どうかしてる。 座っていたブランコから降りて公園全体を眺めてみた。錆びた鉄が擦り合わさる音を耳にしながら。 最初の着信からその場からあたしは動けずにいたのだ。もしかしたらあいつが来るんじゃないのか、とありもしない現実を勝手に想像して勝手に期待を膨らませて。 馬鹿げてる、と口にされたら返す言葉が見つからないだろう。 そうこう考えている内にまた着信。本当はでたらいけない事ぐらい頭では理解出来てる。なのにどうしてもあいつの声が聞きたくて。限界なんかもうとっくに越えていたのかもしれない。 本日2回目のこれで最後にする、という決意を固め深呼吸をする。 あたしは引き寄せられるように通話ボタンを押した。 「…もしもし」 返事はない。自分からかけてきたくせになんなんだ。どうせ馬鹿土方の事だ。何も考えずに電話をして、あたしになんて言葉をかけていいのか分からないのだろう。はた迷惑な奴。口元が緩んだ。 「用が無いなら切りますよ?」 声が震えた。涙が零れないように必死に唇を噛み締め強がった。鼻を啜れば泣きそうな事がバレてしまいそうで、それすら躊躇ってしまったくらいに。 この電話を自ら切れる訳なんてないのに。ねえ、と返事を急かすもやっぱりあいつが声を出すことはない。 だから、ムカついたから、勢いで気持ちをぶちまけてしまった。 「…あんまり電話してこられると期待しちゃうんですよ」 「もしかしたらって、ありもしない事考えて」 「だからそういう行動は、」 「なあ、」 控えて下さい、と口にする前に遮られた。いつまでも言葉を発しなかったあいつがやっと口を開いたのだ。 たった数時間聞かなかったあいつの声が何年も聞いてなかったくらいにに懐かしく感じひどく安心した。ずっと我慢してた涙がこぼれる。 「全然期待してくれていいんだけど」 携帯が掌から滑り落ちた。 携帯から聞こえた声とすぐ後ろから感じる温もりから聞こえた声が重なったから。 なんで。 なんで、あんたが此処に居るんだよ。 (あいつを困らせないよう、決めた決意が揺らぎ崩れる音がした) 2011/11.30 ← |