後悔に埋もれる | ナノ




あいつからの告白の後、すぐに俺に彼女が出来た。好きだったあいつをフってしまってやけくそになっていたのだ。悪いのは全部自分と分かっていたから尚更。もう彼女とは話す事は完璧に無くなった。たまに視線が合う事があったが、すぐに反らしてしまう。弱い自分を隠したくて。
彼女との進展はないまま高三になった時、ある噂を耳にした。
"沖田総羅に彼氏が出来た"
まだあいつはきっと俺の事を、なんて。本当自惚れていた。色がついていた世界が全て白黒になった。
それでもたかが噂だ、とまだ飽きもせず逃げ出したのだ、俺は。希望を失いたくなくて。自らそれを消しているのに。
そんな時だ。あいつの彼氏と呼ばれる奴が俺の前に現れた。
俺を一目見てそいつはすぐにあんたが総羅の幼なじみ?、と口にした。第一声にそれかよ、とイラついたのを覚えてる。
そもそもなんでそれを知ってるのか、という俺の気持ちに気付いたかのようにそいつは、口を開く。その言葉はあまりにも残酷で。



「俺、総羅の彼氏」



へにゃり、と笑ったそいつには"幸せ"という言葉が随分とお似合いだった。
それが何、と強がってみても声が震えてしまったのなら意味がない。
あいつの彼氏だと名乗ったそいつは俺が強がろうがなんだろうが心底どうでもいいらしく、それには一切触れる事なく話を進める。



「聞きたい事があってさ」

「…んだよ」

「なんで告白断ったの?」

「なん、で知って…」

「だって告白の後泣きつづけた総羅の側に居たのは俺なんだから。で?なんで?」


そんな事実知りたくなかったのに。今更耳を塞いだところで聞こえなかった事には出来ない。
いつまでも口を開かずにいたら、そいつは言いたくなければいいよ、とまた笑った。
なら何故聞いたんだ、と言いたかったがどうも気力がなかった。恐ろしいほど俺の頭は、心は、真っ白になっていたんだと思う。空っぽになっていたんだと思う。



「まあそれより、本当はお礼を言いにきたんだ」

「お礼ってなんだよ…、」

「よそ見をしてくれてありがとう。あんたがよそ見してくれなかったら今きっと総羅は俺の隣に居なかった」

「ありがとう」



"誰かが幸せになる裏側で別の誰かが傷ついてるんだよ"彼女が言っていた言葉を不意に思い出した。
一緒に幸せになれる道から俺が彼女を突き飛ばしたんだ。臆病な自分に勝てなくて無理矢理あいつを押し退けたんだ。
お礼を言われた時、逃げつづけた現実が全て降りかかってくるのを感じた。どういたしまして、なんて言える訳ねえじゃん。何かをしようとすれば情けない事に泣いてしまいそうで。必死に泣かない様にとしていなければ声を上げてしまいそうで。
それだけだから、と去って行った背中が見えなくなってもその場から動けずにいた。




今手元には写真と手紙が一枚。
幸せそうに笑う男女の写真と手紙には結婚しましたの文字。
その二人の顔には見覚えがあって。そもそも忘れる事なんて出来るはずないのだから。
なあ、もしもあの時、あの告白の時、俺が弱くなかったら、臆病者じゃなかったら、笑顔のお前の隣に俺が居たのか?
一緒に幸せになれたのか?
俺がお前を幸せにすることが出来たのか?

世界で一番好きだった彼女へ。
まだ貴女の幸せを願えるほど強くありません。
まだ図々しくも心のどこかで貴女を愛してしまっています。
貴女の幸せの為に自分の気持ちを押し殺す事ぐらいしか貴女にしてやれません。

何年も前の自分をぶん殴ってやりたい。しっかりしろって。強くなれって。

声を上げて泣いてしまった俺にはそんな事言う資格なんて微塵も無いのだろうけど。



後悔に埋もれる
(隣に感じる温もりはもう居ない)





2012/01.12


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