臆病者の声 | ナノ




昔、俺には好きな奴が居た。幼い頃、毎日といっていいほどよく遊んでいた。もう一緒に居ることが当たり前になっているくらいに。だが、思春期になるにつれ周りから俺達が一緒に居る事をからかう声が増えてきた。その時初めてあいつを異性としてみた。
それからだ。少しずつ、本当に少しずつ話す回数が少なくなってきて。俺が周りの目を気にして、あいつから距離を取ろうとしたのだ。それでもあいつは周りの声など気にせずほぼ毎日俺と話をしようとわざわざ違うクラスから来たり、一緒に帰ろうとしたりした。
そもそもモテる方だった彼女に、異性からの放課後のお誘いがない事がおかしいのに。今になって考えてみればきっとそれを断ってまで俺と一緒に居たかったのだろう。
その時にはなんとなくあいつが俺に好意を寄せてる事は分かっていた。それは俺も同じだった。なのに怖かった。あいつと一歩踏み出すのが。一歩踏み出せばなんだかあいつと別れなきゃいけない日が来る気がして。怯えていたのだ。

そんな曖昧な日々を過ごしていた時、俺と彼女の関係を動かす決定的な出来事が起きた。
それは高ニの夏だ。彼女が俺に告白をしてきたのだ。本当は嬉しくて仕方なかったのにまだ怖かった。まだ俺は怯えていたのだ。



「…ごめん」



だから断った。あいつは笑った。それは酷く悲しそうに。



「ねえ知ってる?誰かが幸せになる裏側で別の誰かが傷ついてるんだよ。…、あたしはあんたと幸せになる道を歩めなかったんだね」

「正直あんたもあたしの事好きなんじゃないかって自惚れてた」

「馬鹿だね、あたし」




確かにその時彼女は泣いた。一瞬だけ流れた涙をすぐに白く細い指が掬った。俺が拭ってやれたらどんなによかったか。俺も好きだ、なんて言える勇気はどこのポケットを探してもなかった。



臆病者の声
(それはいつになっても声になる事はなかった)



2012/01.12
長くなりそうなので区切りました。
続きます。



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テーマ「人外ファンタジー」
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