3秒で死ね。 | ナノ




「総羅!!ねえ総羅ったら!!」

「………」

「無視しないでヨ」



いつも以上にしつこくあたしの名前を呼ぶあいつにイライラしか募らないのはきっとあたしが相当あいつに苦手意識を持っている事に違いない訳で。更に苦手な奴と我慢して仲良く出来るほど器用な方じゃないあたしは多分今ものすごく嫌そうな顔をしているはずで。なのにあいつはあたしの気持ちなんてどうでも良いらしくいつもの二倍は鬱陶しいくらいの笑顔を振り撒いている。
こいつになにを言っても無駄という事実があたしを更にイラつかせ、荒々しく舌打ちをした。女の子がそんな怖い事しないの、なんてほざく奴をぶん殴ろうと拳を振りかざしてもいとも簡単に交わされてしまう。これはあたしが折れなければ返事をするまでいつまでも鬱陶しく名前を呼ばれるんだろう。不本意だけどこれ以上ストレスを溜めない為だと自分に言い聞かせなに、と口にした。



「やっと総羅と会話が出来るヨ」

「いいから用件だけ言えぶち殺すぞ」

「まあまあ落ち着きなよ、それよりほら見て」



そう言ってあたしの目の前に差し出されたのは、白い紙袋だった。開けてみて、と降ってきた声に従って紙袋を覗いてみれば、あたしが前々から食べたいと口にしていたプリンだった。驚いて声が出なかった。なぜならそのプリンは完全予約制のもので今1番人気なだけあり、予約なんてなかなか取れないし、取れたとしても何ヶ月も待たなければならない代物だからだ。
なんで、と奴に向けたあたしの目はきっとキラキラ輝いていたに違いない。それくらい嫌な気分から一転し、もうあいつが神に見えるくらいになっていたのだ。単純だと言われたらその通りなのかもしれない。



「なんでって、」

「好きな子喜ばせたいって思っただけなんだけど?」



あたしは神威のこういうところが1番嫌いだ。なんでそんなサラっとそういう恥ずかしい事が言えるのだろうか。頭沸いてんじゃないの。
でもそれに少しでも照れてしまう自分の方がきっとあいつより頭沸いてるんだと思う。
さっさとこの状況を変えたくて、食べていいのか聞いてみたらその為にわざわざ買ってきたのだと言う。



「じゃあありがたく頂くわ」

「貰ってくれなきゃ困るし」

「それより、よくあんたがプリンの為に何ヶ月も待てたよね」

「まあまあいいからさ。ほら、食べなよ」

「うん。いただきます!」



ぱちん、と目の前で両手を合わせてからビニールの袋を破りプラスチックのスプーンを取り出す。それにプリンを乗せて、口に入れた時だ。隣に居たあいつはいつも以上にニヤニヤし始めたのだ。
嫌な汗が背中を濡らす。ものすごく嫌な予感がしてきた。もしかしたら、いや絶対にこのプリンは食べてはいけない物だったのではないだろうか。今更吐けと言われても、もうそれは胃の中にすっぽりと収まっている。
プリンは口に入れた途端ふわりととろけて、カラメルのほのかな苦みとふわふわした甘さが混じりあって想像以上の物だった。さすが予約が取れないだけある。
嫌な現実から必死に逃れようとプリンを口にした、あの幸せだったひと時を必死に思い出した。目の前の奴は相も変わらずニヤニヤしている。
逃げられない、



「ねえ、今食べたよね?」

「食べてな、」

「食べたよね?」

「……」



あいつの勢いに気圧され、言葉を詰まらせてしまった。頭の中であたしの負けを認めるゴングが鳴った。
いっそのこと開き直ってやろうと思った。どうせ何を言っても無駄なんだから。それでもあいつが次に口にする言葉を聞くのが怖かった。



「…だからなに?」

「貸しが一つ出来たね」

「ちょっと待ってよ!これはあんたが勝手に買ってきたんじゃん!」

「でも食べたじゃん。これ本当買うの大変だったんだよね」

「あたしを喜ばせたいって、」

「喜んでたじゃん。だから今度は総羅が俺を喜ばす番じゃない?」



無茶苦茶だ。こんなのあんまりだ。それでも一番貸しを作りたくなかった奴に貸しを作ってしまった以上あたしにこれから訪れるのは不幸なこと以外何もない訳で。頭が痛くなってくる。



「総羅、俺と付き合ってよ」



ほら、言わんこっちゃない。


3秒で死ね。
(「3秒も待つのすら嫌だわ今すぐ死ね」
「もう拒否権はあんたにはないんだ。逃がさないよ」)





2012/01.14


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