「あけましておめでとうございます」
物珍しく綺麗な着物に身を包んだあいつがいきなり俺の部屋に来たかと思うと急に改まったかの様に正座をし、それだけでも呆気にとられてるというのに、新年の挨拶をしやがった彼女に俺はどうすればいいのだ。
言いたい事はたくさんあるが、まあいいまずはこれだ。
「もう4日過ぎてるんだけど」
彼女の言い分はこうだ。元旦にたくさんの人に挨拶をして疲れてしまったらしい。別にあんたに挨拶するのを忘れてた訳じゃない、と言う彼女はどうも俺と目を合わせようとしなかった。
泣いていい?と聞いてみる。返事は無い。常にポーカーフェースのあいつが珍しく視線を左右に泳がせる。これは俺に嫌がらせをしたくて、とかではなくガチで忘れてたみたいだ。もうなんなんだよ。なんでお前はいつも一緒に居る俺の事を忘れんだよ。
少しの悲しさと少しの悪戯心が俺を動かしあいつに意地悪をしてみたくなるのも仕方なかった事だと思う。
「なに?俺はお前とにこいちじゃないのかよ!」
「……」
「だいたい新年の挨拶忘れるとかねえよ。つーか4日も過ぎたならもう挨拶なんていらねえし」
「……」
「お前にとって俺はそんな軽い存在だったんだな」
たかが挨拶しなかったくらいでここまで追い詰めるのはどうかと。でも話してるうちに本気で悲しくなってイライラしてしまったのだ。本当に自分でも大人げない事をしたと思う。
だが、これはあいつが全て言い返してくることを前提に話していた。なのに、あいつは言い返す事もせずただ黙って唇を噛み締めていたのだ。口を動かすのをやめた途端ものすごい罪悪感に襲われた。
おい、と言葉を投げても返ってきたのは驚く事に謝罪だった。違う、本当はこんな事言わせたかった訳じゃなくて。ただ冗談嘆かわしいたかっただけで。
「…なんだよ、なんで謝んだよ」
「だってあんたが言ってること間違ってないし」
「それでも揚げ足取ろうとすんのがお前だろ」
「まだ年変わって4日しかたってないのに…、その、」
「あ?」
「喧嘩とか、したくないじゃないですか…」
頬を少しだけ赤く染め、横目でちらちら俺の反応を伺ってるあいつを無性に抱きしめたくなった。
なんだよ、それ。どうしたんだよ調子狂う。どうしていいのか分からず乱暴に頭を掻きむしる。
色のついた頬の原因は夕日のせいだ、なんてまだ太陽がギラギラ光ってる空に無理矢理理由を押し付けた。
今年もよろしく
(これが全て仕組まれた事を知るのは3日後のこと)
2012/01.09
本当は1月4日に終わらせるつもりだったんです。
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