馬鹿は風邪ひかない | ナノ




「あー…」

「あーじゃないですよこの馬鹿」



少し赤みがかかる頬、虚ろな目、どうやら馬鹿は風邪ひかないというのは嘘みたいだ。
そもそもあんな食生活して生きてきて体調崩さないほうがおかしいんだと思う。やっちまったー、と口にする土方のおでこに冷えピタを貼ってやる。あたしはなんて出来た部下なんだろう。まあ、近藤さんに土方の面倒みろなんて頼まれなけりゃこんな事進んでやる訳がないんだけども。



「つーかなんでお前がいんのー?」

「弱った土方嘲笑いに来ました」

「帰ればぁーか」



いつもの何倍も威勢が足りない土方になんともいえない気分になる。こんなんお前らしくねえじゃん。調子狂う。
早くよくなってね、なんて言葉が頭に浮かんだ。そんな可愛い事、言える訳がないと軽く笑って頭から消す。そのまま野垂れ死ね、と真逆の事を口にすればあー、と間の抜けた言葉が返ってきた。いつもならお前が死ねとあたしの頭をぶっ叩くのにそんな気力もないみたいで。今のあんたに鬼の副長なんて言葉徹底似合いませんね、とまた憎まれ口を叩くも先ほどと同じ、言葉にすらならない返事をする。



「…風邪ひくとあんた一段と腹立ちますね」

「はぁ?」

「一生冷えピタ貼ってろバーカ!さっさと失せろはげ!」

「失せろも何もここ俺の部屋だし、ハゲてねえし…」



もっともな事を言い返されてついに言葉に詰まってしまった。なんであたしはこんなにこいつに振り回されてんだろう。なんで病人のこいつに余裕があって、ぴんぴんしてるあたしに余裕がないんだろう。はあ、と色がついた吐息を漏らす土方になんだか色気を感じてしまいむずかゆくなる。
ああ、わかった。きっと赤く頬を染め、弱った土方見慣れないからだ。だからきっとあたしは動揺して、こいつとどう接していいか分からなくて混乱してるんだ。それを理解した途端に急に恥ずかしくなり土方の目を見れなくなり、視線を下に向けた。なんてあたしは単純なんだろうか。



「おい、もういいから部屋戻れ」

「あ?」

「お前に風邪移すとわりィし」

「あんたみたいにあたしは病弱じゃないから平気です。それよりあんたはさっさと寝て下さい」

「お前が出てったら寝る」

「なにそれ」



あたしがどんな気持ちで看病してるのかも知らないで、邪険にしやがって。ふつふつと沸き上がる怒りを抑える気なんてさらさらなかったあたしは一生風邪ひいてろバーカ!と無駄に声を張り上げてあいつの部屋から出て行くのだった。本当頭にくる奴。ちょっと本気で心配してたのが馬鹿みたいじゃんか。



あいつが居なくなってがらりと殺風景になった部屋を見渡し安堵の息を漏らす。今の俺は溜まりに溜まっていて、つまり簡単にいえば性欲の塊みたいなもので。
風邪だろうとなんだろうと性欲は解消されないし、むしろ溜まる一方だし、そんな中あいつにあんな艶っぽい顔されりゃ、襲ってしまうのなんか時間の問題だ。だから追い出した。不器用ですね、と言われたらきっと返す言葉なんて見当たらない。はあ、と深いため息を零す。



「風邪が治ったらまずあいつの機嫌をどうなおすかだな」



結果はどうであれ、あいつが看病してくれたという事実は変わらない訳で。自然と上がってしまう口角はあいつにベタ惚れしてしまってる証拠以外何者でもないのであった。



馬鹿は風邪ひかない
(次の日俺の熱は下がったのは良いのだが俺を看病した馬鹿が風邪をひくのはまた別の話)




2011/12.24


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