地獄に堕ちたのはどちら? | ナノ



ヤンデレ沖田×初期沖田





「なんで総羅はあいつが好きなの?」

「は?」



あいつ、というのはきっと兄貴が大嫌いな常に瞳孔が開いている黒髪のやつの事だろう。
いきなり何を、と口にしてみるも気味が悪いくらにニコニコとしているだけで返事はない。
分かるのは総悟の様子が可笑しいという事だけ。あたしが知ってる総悟とは掛け離れてる事だけ。
ゆらり、とこっちに近づいてきた彼に思わず後ずさりをしてしまった。パチリと開いた目は瞳孔が開いていて。恐ろしく冷たい声で言い放った。



「なんで逃げんの?」

「なんか、今日総悟おかしいよ?どうしたの?」

「何処もおかしくなんかねえよ、ただもう良い兄ちゃんを演じるのは疲れたんでさァ」

「なにを、言って、」

「なァ、」

「土方を殺せば諦めてくれますかィ?」



頭で警報が鳴った。この人に近付いてはダメだ、と。身体が恐怖で動かなくなった。口元は確かに弧を描いてるのに目は据わっていて。
昨日まで一緒に土方をからかっていた兄貴が別人の様に感じた。むしろ別人であってほしかった。これは嫌な夢だ、って誰かに囁いてほしかった。そんな現実逃避をしたところで現状なんて変わるはずないのに。
震える喉を振り絞り、なんとか声にする。



「あ、土方殺す、計画のことかな?あたしも参加」

「そんなあまっちょろい計画じゃなくて、まじで殺るって俺は言ってんでィ」



言葉を遮られ、この空気をどうにか冗談につなげる事すら許されなかった。総羅もあいつが死ぬとこ見たくないですかィ?そう口にした兄貴を見てあたしは確信した。

こいつは狂ってる。

いつから、どうして、なんで、言いたい事はたくさんあった。でもその全ての原因があたしに返ってきて。
いつからだなんて気づいてなかったのはお前だけだよ。
どうしてだなんてお前が原因じゃないか。
なんでってふざけてるの?
言葉にしなくてもそれが痛いほどわかった。振り絞って出した声はやめて、の一言だけ。なんて情けないんだ。空気が一気に重くなる。息苦しい。このまま窒息死するのも悪くないかもしれない、そう思ったと同時に景色が反転した。どうやら押し倒されたみたいだ。憎たらしい程青い空を睨みつける。汚らわしいから見るなと言われた気がし、視線をそらした。



「なんでだよなんであいつなんだよ俺がお前の兄貴だからか?俺が兄貴じゃなかったらお前は俺を好きになってた?ねえなんでとめるんでィなんで好きにすればって言わなかったんでィなあ、なァ!」

「ごめんね」

「今更謝罪とかふざけてんのかィ?謝るくらいなら俺を見なせェよなんで土方なんだよああもう考えたって無駄だねこりゃァもう潰せばいいんだそもそも俺は面倒くさいのは苦手なんでさァ」



はは、と乾いた笑いを零しあたしの知らないあいつはあたしの上からどいた。手にはしっかり鞘の抜かれた刀。これで土方を斬りに行くんだ。駄目だよ総悟、それだけは絶対にさせないんだから。



「ねえ、お兄ちゃん」



総悟が振り返ったと同時に刀を思いっきり振り上げる。



「ごめんね、あいつを守るにはこれしか方法はないんだよ」



視界が真っ赤に染まる。お兄ちゃんの驚いた顔が見えた。崩れ落ちる。



「どっちかが消えなきゃいけなかったんだよ」



地獄に堕ちたのはどちら?
(歪む視界の中見えたあいつの口元は相も変わらず弧を描いていた)





2011/12.12


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