そもそもあたしが虐められる原因は欠伸が出てしまう程に単純な事だった。 中学一年生の時、女子グループの所謂リーダー格の子が腕を骨折し、登校して来た。瞬間、我先にと女子達はその子の周りを囲み、口々に大丈夫?平気?と声にする。馬鹿馬鹿しくてそれを遠目に見ていたあたしを、囲んでいた一部の女子が気づき、あいつは心がないだの、最低だの口にした。あたしの態度が気にいらなかったリーダー格の子はあいつを無視しよう、と指示する。それからいじめに発展するまでは本当に早かった。 無視をしても無反応、つまんないから殴ってみよう、やっぱり無反応、こうなったら徹底的に。 本当馬鹿で単細胞な頭の奴が考える事みたい。 高校に入っても、同じ中学の奴はやっぱり何人もいて。そいつらの余計な情報のお陰であたしは今もいじめられっ子のままだ。どうにかしたい、なんて思った事はないし、面倒だから考えたくもない。 今日も当たり前の様に机に置かれる菊の花。それを眺める奴らの顔はニヤニヤしている。精神的に追い詰めたつもりだろうが、生憎何とも思っちゃいない。 ここで、お願いやめて!なんて泣きながら叫ぶのを奴らはきっとお望みなのだろう。それを実行してもきっと手を叩いてゲラゲラ笑われ、さらに不愉快になるだけなのはすぐに分かる。だから無表情でその綺麗に飾られた花瓶を机から邪魔だと払い除けた。ガシャン、と割れる音が教室中に響く。 小さなガラスの破片が脚に刺さる。見てみると綺麗な赤がどろりと流れた。近くに居た奴にも破片が刺さったのかうるさく痛いと騒ぐ。大丈夫?、平気?と声が聞こえる。中学の時の事が脳裏でフラッシュバックし、がんがんと頭が痛んだ。 「あんたが怪我させたのによく平気でいられるよね。普通じゃないよ」 そもそもあんたらがこんな事しなけりゃ、怪我なんかしなくて済んだんだろうが。 紺色のソックスに赤が滲む。 「本当他人に怪我させるなんて信じられない」 毎日飽きずにあたしを殴る蹴るしてるくせにどの口が言うの。棚上げもいいとこだ。 上履きにも赤が滲む。 「なんで生きてんの?」 ぷちん。 糸が重さに耐えれず少しずつ切れていくように、あたしの中の何かがブチリと切れた。 ポタリ、と床に零れ落ちた赤を最後に記憶はとんだ。 空が赤くなっていた頃にあたしは目を覚ました。ツン、と鼻をつく薬品の香り、あまり良いとはいえないベッドから此処は保健室だと認識する。窓から夕日が射し、目をチカチカとさせた。あんまりいい気分ではなく、すぐにカーテンを閉める。 「脚、それなりに深い傷だったみたいだな」 「…なんであんたがいんの」 大嫌いな黒髪が壁に寄り掛かりながら、こちらを見つめる。言いたい事は山ほどあったが、どうもそんな気力がなく、必要最低限気になる事だけを口にした。土方はその質問に答えようとはせずに、珍しくずっと俯いたまま。何かあるのではないか、と警戒するのも無理もない話だと思う。 さっさと帰ろうとベッドから降りたらびり、とした痛みが脚から走り、そのままあたしは転倒。それなりに深い傷だとこの男が告げていたのを思い出して、小さく舌打ちをした。 この状態で歩いて帰れる訳がない。帰れたとしても何時間もかかりそうだ。仕方ない、あの銀髪をアシに使うかと考えた時、先ほどまで壁に身体を預け俯いたままだった土方があたしに手をさし出している。 だれがあんたなんかに…。 それを無視してどうにか自力で立ち上がるも痛みのせいでフラフラとバランスがとれない。 心のどこかでこいつに頼ろうとしている自分を殺してしまいたかった。 「…お前、俺のこと、」 何か言いかけた土方なんか無視して、ヨタヨタとどうにか保健室を出た。アドレス帳から天パを探す。今までのことを話せば3分もしなうちにあいつは飛んでくるだろう。そういう奴なんだ、銀八せんせーは。 虐められっ子 (案の定飛んで来た先生にあたしは声を出して笑った) 2012/0409 ← |