「死に損ないの癖に!」 パンッ。 乾いた音が部屋に響いたと同時に感じる頬の痛み。あたしは何も言わず、ただただ"今の母親"を見つめる。 確かにあたしは死に損ないだ。あそこであたしは両親と一緒にぶっ倒れてるべきだったんだ。 あたしの両親は火事で亡くなった。残されたのは、姉さんと双子の兄とあたし。 最初は3人で、皆で一緒に居よう、なんて馬鹿げた事を言っていたけどやっぱり現実は甘くない。あたし達は顔もよく知らない親戚に3人別々に引き取られる事になった。そりゃ3人も育てられるほどお人よしはこの世の中だ。居るわけがない。だからあたし達はばらばらになった。 絶対に迎えに来るから。少しの間だけ離れ離れよ、と笑った姉さんを見てから何年経ったんだろうか。 元気にしてるといいなあ、なんて痛む頬に手を当て考えてみる。 「もうあんたも、両親みたいに死ねば?」 高い声で笑う"母親"。耳障りだ。片手には酒。本当、馬鹿らしい。 あたしが何も言わずにいれば何か言いなさいよ、とお腹を一発。一瞬息が出来なくなって倒れ込む。咳が出た。 どうやらこいつも他人の目は一応気にするらしく、殴ったりするのは服を脱がなきゃわからない様なところばかり。本当つくづくクズだと思う。 「あ〜、もうお酒ないわー。総羅買ってきなさいよ。財布はいつものとこだから」 「……はい」 「ったく、さっさとしなさいよね!本当役立たずなんだから」 よろつく身体をどうにか支えながら、サイドボードの棚を開けてブランドのサイフを取る。 一刻も早くこんな汚い部屋から出たくて早足で玄関に向かった。遠くから10分以内に買って来なきゃあと一発殴るからね、という言葉を無視し、玄関のドアを閉めた。 「どっちみち殴る癖に」 悔しくて奥歯を噛み締める。結局あたしがどんなに嘆こうが喚こうがあいつに頼らなければ生きていけない、という事実が嫌で仕方なかった。 悔し涙は出てこない。もう随分前に感情を表にする表情は無駄で邪魔な物と分かってからソレは何処かに捨ててきた。あいつはそれが気に入らないと言う。それでも表情を崩さないのはあたしのせめてもの抵抗。 さっさと買って来ないとまた更に面倒な事になるのはすぐに想像出来た。 あたしは急いで近くのコンビニに向かった。 死に損ないの私 (それでもまだ希望は捨ててなくて、) 2011/08.19 ← |