始動 「ごめんね、土方さん。バイバイ」 「総羅ッ…!!!」 勢いよく飛び起き周りを見渡せばいつもと同じ俺の部屋。それが夢だと分かった途端酷く安心した。 どんなに追いかけても遠くなり続ける背中に掌に汗が滲んだ。今俺が荒々しく呼吸を繰り返してるあたりでそれがどんなに恐ろしくて、あってはならない夢か分かる。 可笑しい、本当に可笑しい。好きなんかじゃないのに、頭の中はあいつの事ばかり。なんでだよ。確かに俺はあいつをフッた。それはたんに幼なじみとしか思えなかったから。なのに今はどうだ。考えたくない。最低な野郎だと思う。 「頭いってー…」 久しぶりに二日酔いになるくらい呑んだ。俺がこんなになるくらいだ、きっと総羅はもっと酷い状態の筈に違いない。今からあいつの看病をしないとならないと思うとなんだか穏やかな気持ちになれた。 ガンガンと痛む頭を抑えながら、横暴で自分勝手な幼なじみの姿を探す。その姿は視界に入らない。なんだか嫌な予感がしてきた。 「総羅ー!」 自分の声が響くだけで返事は返ってこない。ソファーから飛び起き、キッチンから風呂場、トイレまで探したがその姿は見当たらない。 出掛けてるだけだ、すぐに戻ってくる。ぶつぶつと呟いて自分に言い聞かせてみるも、どうも心臓は早く脈打つだけ。先ほど見た夢の少女の遠くなる背中が脳裏にちかちかと光った。 もう一度部屋を見渡せばテーブルに見慣れない紙が置いてあるのに気づく。 「んだよ、コレ」 手にとって見た。荒々しく汚い字で書かれた言葉は俺を動かすには十分すぎて。 "ごめんなさい、今までありがとうさようなら" こんなの、こんなの最後のお別れの言葉みてェじゃねえか。 下の方に書かれた死ねばーかの文字。それすらあいつの強がりにみえて。 総羅は、最初から強くなんてない。チラシの裏に書かれた文字は滲んでいるのもちらほら。きっと涙でインクが滲んだんだろう。またあいつは泣いてたに違いないんだろう。小さくて弱いあいつを無性に抱きしめてやりたくなった。 抱きしめに行かなきゃいけない。じゃなきゃあいつが壊れてしまう気がして。きっとこれは俺のエゴに違いない。 「あの馬鹿野郎!!!」 鍵も掛けずに部屋を飛び出した。きっとあいつは駅に向かった筈だ。全力で走った。もうこれ以上は無いってくらいに。 待ってろ、なんて。本当ふざけてる。駅には俺の知ってる少女の姿は無かったのだから。 悔しくて、目頭が熱くなり何かが零れた。今日と昨日と最近毎日泣いてる。本当情けない。 (今更好きだと気づくなんて。グルグルと歯車が動きだす) 2011/11.13 ← |