変動 「落ち着いたか?」 土方にそんな言葉をかけられたのは、あたしが号泣して一時間程経過した時だった。 あんだけこいつの前では泣かないようにしていたのに、弱いところなんか見せてたまるもんか、なんて思ってたのに。 今更後悔をしても遅いのに、後悔をせざるをえなかった。 ん、と言う言葉と共にマグカップを渡される。湯気からほんのり甘い匂いが香る。 「なに?」 「ココア、飲んでおけ」 一口それを飲めば、気持ちが落ち着いてきた気がした。半分くらいココアを飲んだ時、なんとなく残ったそれを土方にぶっかける。 うわ、なんて間抜けな声が聞こえた。 「てめっ、なにすんだ!熱いじゃねェか!」 「酒買ってきてんだからソレ呑むに決まってんだろ、馬鹿じゃね?」 この野郎…、と呟いた土方の表情は明るく見えて。前と同じ様に戻れる訳なんてないのに、形だけでも必死にそれを造ろうとしているのはきっとお互い同じなのだろう。 いいからさっさと呑みなおすぞ、と言えば土方は小さく笑った。 それからはとにかく呑んで騒いでの繰り返しだった。らしくもなく土方も一緒になって。 辺りを見渡せば空になった酒の缶がちらばり、その中で寝息をたてて眠る愛しい人の姿。 はっきりいって、あたしは呑んだ気なんかしなかったけど。これで良いんだと思う。 「これで最後だよ、土方」 もう、これで本当に最後だから。 規則正しく寝息をたてるその唇に自分の唇を押し付けた。 笑った瞬間涙が零れた。自分で最後だと決めて、自分でそれを拒絶してる。なんて我が儘なんだろう。 そこらへんに置いてあったチラシの裏に、またそこらへんに置いてあったボールペンで言葉を書く。 思ったより震えた指先にイライラした。 遠くまで出向いた癖に必要最低限の物しか入っていない鞄を肩にかけて時間を確認する。そろそろ始発も出てる時間だ。 「一生寝てやがれ!ばーか!」 返事はない。良いんだ、これで。最後にこいつに起きられれば決意した事がずたずたに崩れてしまうから。 迷惑かけてごめんなさい、なんて言うつもりなんてこれっぽっちも無かったのに。ごめんね、大好きな人。 最初から最後まであたしは嫌な奴で居られましたか? ずっとあなたの一番近い存在で居られましたか? ドアの閉まる音を背中越しで聞き足を進めた。あんだけ憎らしかった奴をここまで好きになるなんて、こんなにあいつを想って泣くなんて。本当あたしもどうかしてるよ。 (少しずつ現状が変わっていく) 2011/11.12 ← |