あいつが居なくなってもう何年たっただろうか。
あいつは急に真選組から姿を消した。調べてみればどうやら春雨の団長のとこに行ったらしい。つまり真選組を裏切った訳だ。
゙沖田総羅を殺ぜこんな命令が上からも出てる。もうまともに会って会話すら出来ない。
あいつの部屋はまだ昔のままだ。近藤さんが言うにはいつでも帰って来れるように、らしい。真選組をあいつは裏切ってるのに、近藤さんを裏切ってるのに、どこまであの人はお人よしで馬鹿なんだ。
俺も同じように心の何処かで帰って来てほしいと願ってるのは確かで。あいつの表情、匂い、仕草、全てが頭から離れなくて。きっと馬鹿なのは俺も同じだろう。
「久しぶりですね」
ある昼下がり。公園のベンチに座りぼーっとタバコを吸っていた時だ。そいつは突然のこのこと俺の前に現れた。
一つに括っていた長い髪は肩までになり、何事も無かったように俺の隣に座る。驚いて目を見開いてる俺を見て、笑う総羅の顔は昔の笑顔より大人びていて。
「お前…!」
「こんにちは、元気にしてました?」
呑気に俺に話をするそいつに言葉が出なかった。いつまでも反応出来ないでいると、そいつはあ、と間抜けな声をあげ小さく笑う。気のせいかその顔がなんだか寂しそうに見えた。
「確か殺害命令出てるんですよね、あたし」
何処で知ったのかは知らないがそいつがそれを口にした時、なんだか無性に腹がたった。そんな事実受け入れたくない、という俺のエゴがそうさせるんだろう。
お前はそれでいいのかよ、なんて喉まで出かかった言葉を胃に押し戻す。聞いたところで返って来る言葉はだいたい分かってる。こいつが頑固者で俺が横からどんなに口出ししようが時間の無駄だ、って事も。
ほら、絶好のチャンスですよ、と笑う総羅。それでも刀を抜くことなんか出来なかった。
仮にも惚れた女だ。こんな情捨てなきゃならないのに、どうしても出来なくて。下唇を強く噛み締める。隣でため息が零れた。
「私殺されるなら貴方にって決めてたのに」
情けない、なんて呟く彼女をなんの躊躇いもなく斬れたらどんなに言いだろう。また笑った彼女の眉は下がっていて。
おいなんで、
「後悔しても知りませんよ?」
なんでお前が泣きそうになってんだよ。
一つの後悔
(俺が唯一後悔してる事と言えば、遠くなる背中を追いかけ、行くなと腕を掴めなかった事だ)
2011/11.01
←