おかしい。本当におかしい。土方がおかしい。いや、あいつがおかしいのは初めからだけど。とにかくおかしい。
イライラしてるのか貧乏揺すりを激しくして、目は血走ってる。どうせテレビの内容なんか頭にすら入ってないのに、テレビから目を逸らさずに見ていて。正直隣に居るのも嫌なくらいだ。
「あんたなんなんですか」
「あ?」
「そんなになるくらいならほら、ソレ吸えばいいじゃないですか」
あたしが指を差した先にあるのは、土方が気づいたらスパスパ吸ってる煙草。あんだけヘビースモーカーだったあいつが3日前からピタリと煙草に手をつけなくなったのだ。
なんでだか理由は分からないけど、気持ち悪いのは確かで。
「吸わねえ!」
「なんでだよ、吸えよ!そうやってイライラされてたらこっちが迷惑なんですよ!」
「ふざけんな!お前が…!」
「あたしがなんですか」
「…なんでもねェ」
急に頬を赤く染め、立ち上がったと思ったらすぐにその勢いは何処へ行ったのか座り込む。
そして最後に意味ありげな、明らかに原因はあたしだ、と言わんばかりな言葉を残されちゃ、こっちだって聞き出さない訳にはいかなくて。
「あたしあんたに何かしました?」
「いや、してねェ」
「じゃあなんです?まさか禁煙なんて言いませんよね?」
「…禁煙中、だ」
「ありえない」
嘘ですよね、なんて聞いても視線を外されるだけ。どうも奴は本気で禁煙を考えてる様にしか見えない。
こんなの絶対おかしい。熱でもあるんじゃないかと奴のおでこに触れても熱はあるとは思えない。
触んな、とまた気持ち悪く頬を赤くするこいつはもう重症だと思う。これは病院に連れて行くべきだ。
「だからマヨネーズ取りすぎんなつったのによォォ!」
「原因マヨネーズじゃねぇよ!!」
「もう、更に症状が悪くなる前に病院行くよ!」
「お前が行け!頭診てもらえ!」
こうやって会話してたらいつもの土方となんら変わりないのに。なんかショックな事でもあったのだろうか。それが原因で大好きな煙草に手を出さなくなったのか。きっとよっぽどの事なのだろう。
勝手に自分で納得して、ポンと土方の肩に手を置く。まあ元気出せよ、なんて珍しく慰めてあげる。もちろん土方を思って、なんかじゃなく土方があのままだったらあたしが面倒だからだ。
「何も知らねー癖によく言うわ」
「狙ってた女の子にでもフられたんだろ?どうせそんなモンでしょ。そういうのを乗り越えていい大人になるって旦那が言ってたよ」
「お前いつ万事屋のとこ行ったんだ?」
「…昨日ですけど」
こいつはどこに食いついてんだ。あいつとは一人で会うな、とかなんとか血相を変えてほざく土方に適当に返事をする。あたしだって子供じゃないのに。馬鹿じゃないの。
だんだんと話が説教の方に傾いてきて、これは早めにこの部屋から出た方がよさそうだ。
「説教されにこの部屋来たんじゃないんで、おいとましますわ」
「お前待て、今日見回りあんだろ!」
今日は日曜日ですぜ、と言い残しダッシュで部屋から飛び出した。後ろから聞こえる待てと言う声。それで待つ馬鹿なんか言ねーよ!なんてご丁重に返事をしてやってから、適当に近くにあった部屋に飛び込んだ。
息を潜め、あたしを追う足音が通りすぎるのを待つ。
「…沖田隊長、なにやってるんですか」
呆れた顔でこちらを見るのは見るからに地味な奴。静かにしろと、人差し指を口元に当てて伝える。
これ、俺も共犯になるじゃないですか、と頭を抱える山崎なんか放置だ放置。
少しすればバタバタと足音が通りすぎた。なんとか土方から逃げ切れたみたいで。
後で見つかってしまったら責任を全て山崎に押し付ければいっか、なんて呑気に考えてた時だ。
「本当、貴女といい副長といい、なんなんですか」
「…土方さんがなに?」
「えっ!あっ、なんでもないです!」
「あんた、土方が変になった原因知ってるの…?」
視線を左右に泳がせ口ごもる山崎にあたしは確信した。こいつは絶対何かを知ってる。これはどんな手段を使っても聞き出すべきだ。
腰にかけてある刀を抜いて奴の首筋に当てる。言わなきゃ殺す、と言葉を付け足して。
「ああ、分かりました!言います!言えば良いんでしょ!」
「ほら、言えよ!原因はなんだよコラ」
「原因は沖田隊長ですよ!」
「は?」
話は最後まで聞きましょう
(今からあいつに文句を言いに行こうと思います。)
2011/10.27
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