都合が良い男 | ナノ




「そりゃ、ないよりはあった方がいいよな」



ただこの言葉だけ聞いたらもっともな事だと思うし、あたしだって納得出来る。でも今はその言葉に酷く傷付いてるし、同時にふつふつと怒りも沸き上がってくる。
例えばその言葉の発信源が自分のコンプレックスの事だったらどうだろう。そして更にそのコンプレックスが自分の胸の淋しさについてだったらどうだろう。
つまり簡単に言えば土方はあたしのような貧相な乳には興味がないみたいです。



「ちっくしょォォ!あのクソマヨラー死ねよ!!」



屋上のフェンスに手をかけ、大きく息を吸い、お腹から声を押し出した。高まる気持ちが少しずつ冷めていくのを感じる。
確かに、クソ土方に胸ってあったほうがいいですか?と聞いたのはあたしだ。そしたら冒頭のあの言葉が返ってきた訳だ。
一応気持ちは通じ合ってる訳だし、仮にもあたしは彼女と呼べる存在なんだし、あいつは胸がコンプレックスなの知ってるはずなんだから、もっとこう、あったほうがいいけど、そのままのお前が好きだよ的なフォローを入れてほしかった。
まあ、あの土方がそんな気の利いた言葉を言えるとは徹底思えないけど、あたしだって傷付く事だってある。
だから無言で土方にビンタをかました訳であって。けしてあたしが悪い訳ではなくて。それで喧嘩になったのもやっぱり悪いのはあたしじゃなくて。



「本当死ねよ…!」



なんだか胸だけじゃなく、あたし自身を否定された様な気がして奥歯を噛み締める。なんとなく胸を触ってみるも驚くほどそれはなく、片手で納められるくらいだった。
何処かの誰かに揉めばでかくなると聞いた気がする。揉んでみた。急に恥ずかしかしくなって辺りを見渡してみる。見慣れた黒髪が目に入った。時が止まった気がした。いやむしろ止まっていてほしかった。おもいっきし殴って誰かあたしを気絶させてくれ、なんて思っても目に入る人影はそいつしかいなくて。



「…お前、何やってんの?」

「ウワアアアアアア!さよなら土方バカヤロー!!!」



全力で屋上から飛び降りようとしたら慌てて奴はあたしの腕を掴んだ。
離せと叫んでみても奴はあたしの腕を離してくれず。本当に恥ずかしさでどうにかなってしまいそう。



「…忘れて下さい」

「なんか、その、お前胸の事、気にしてたのにごめんな」

「遅いんだよバーカ!!お前のせいだからな!!こんな恥ずかしい思いしたのも全部!」

「だからごめんって」

「お前のせいでこんな傷ついて!責任とれよ!」

「なあ、胸って自分で揉んでも意味ないらしいぜ」



気持ち悪いくらい上機嫌な声のトーンに嫌な予感がした。
変な汗が背中を濡らす。



「異性に揉まれなきゃ意味ないらしいぞ」



瞬間、背中にはしる痛み。視界がぐらりと反転した。目の前には口角を上げる土方の姿。頭では危ない、逃げろと警報がなってるのに身体はピクリとも動かなくて。



「責任とって、お前の胸をでかくすんの協力してやるよ」



嗚呼、喰われる。



都合が良い男
(そんなあんたも嫌いじゃない)




2011/10.03
乳の話。椎名さんも貧乳だったからまじで乳はコンプレックスだった。




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