誕生日の話 | ナノ





「高杉誕生日おめでとー!!」



ぱーんぱーん、と教室には乾いた音。クラッカーから出た紙屑が俺の髪やら制服やらに絡みつく。呆然と突っ立ってると早く教室に入れよ、と急かす声。何事だ、と頭がついていかず足も動かない。そんな俺に痺れを切らした留学生だかなんだかの女がものすごい力で俺の腕を強く掴み教室に引き入れた。

今日このくそ暑い中、夏休みだっつーのにわざわざこの高校に来た理由は二日前。
エアコンがガンガンかかった部屋でグダついてたら銀八から電話が掛かってきた。面倒で携帯を放置したら、また流れる着信音。それもまた無視したらまたも流れる着信音。
これはきっと出るまでかけつづけて来る、と思い仕方なく通話ボタンを押した。



「あ、出た」

「んだよテメエうるせーんだよぶっ殺すぞ」

「そんな事よりお前、8月10日学校来いよ」

「は?」

「じゃ、そういう事で〜」

「ちょ、テメ、待て…!」



ぶつり。ツーツー。
あいつは俺の話を聞かず勝手に電話を切りやがった。
一瞬、携帯折り曲げてやろうかと思ったけど、自分の携帯が使えなくなるのは非常に困る。
だんだんと募るイライラを抑え、俺は着信履歴からクソ天パを探し通話ボタンを押した。



「今度はなに?」

「なにじゃねェよ!!テメェなに勝手に電話切ってんだよ!ふざけんなクソ天パばーか!」

「うん、で?」

「で?じゃねえよ!なんでわざわざ俺が暑い中、んな所に行かなきゃなんねェんだよ!」

「遅刻23回、欠席32回、授業サボった回数36回、俺を天パ呼ばわりした数398回、この数字分かる?一学期だけでコレよ?補習に来いと言わねぇ担任がどこに居るよ!お前留年したくねェだろばか死ね!」

「最後の数字関係ねェだろ!お前が死ねクソ天パ!ばーか!天パばーか!」

「はい400回いきました〜!もう駄目だねコレは!職権乱用しようかな〜!成績落としてやろうかな〜!いいの」



ブチッ。
もう銀八の話を聞くのも面倒になった俺は気づいたら電源ボタンを押していた。ついでに携帯の電源も消した。
面倒くせー、と呟く。もう高校に行かない訳にはいかなかった。

なのに、



「なにこれ」

「なにこれってお前の誕生日をみんなで祝ってやるんでィ」

「感謝するネ!私はケーキがたらふく食べれるから参加した訳じゃないアルよ!」

「神楽ちゃん、だったらそのお皿に積まれたケーキどうにかしなさい」


誕生日。ああ、そっか今日俺の誕生日だ。口々におめでとう、と言ってくれるクラスメートの奴らは案外悪いモンじゃねェのかもしれない。
だが、



「俺、今日補習に来たんだけど。だから参加出来ねェわ」

「なに言ってるアル!主役なしで誕生日会やれって?ありえないネ!じゃあお前の分のケーキ寄越すアル」

「下心見え見えよ神楽ちゃん。それより私、貴方の為に卵焼きつくってきたの。食べてくれる?」

「姉上!そんなの食べさせたら高杉さん誕生日がトラウマになっちゃいますよ!」

「お妙さァァァん!高杉がいらないなら俺にそれを下さ…」

「来ンじゃねえクソゴリラアアア!」

「ギャアアアア!」



また変わらず五月蝿く騒ぎ立て始めたクラスメートの奴ら。気づいたら、奥では留学生と沖田とかいう奴が喧嘩を始め出した。

(もう俺関係ねーじゃん)

結局あいつら俺の誕生日って託けて騒ぎたかっただけかよ。
なんだか虚しくなって俺は静かに教室を出た。本当アホくさい。つーかそれより銀八を探さなきゃな。どうせ職員室涼しー、とか言ってジャンプ読んでんだろうけど。
そう思って、早速職員室に向かおうとしたら後ろで教室のドアが開く音がした。



「高杉」

「あ?んだよ土方」

「お前、今日誰がクラスの奴ら集めたか知ってる?」

「知らねェよ、興味ねーし」

「もしかして銀八だったりしてな」



は?と俺が言葉を発するのが早いか、土方が素早く教室に入り鍵をかけるのが速いか。きっと後者だから今、土方だけじゃなくクラスの奴らが早く銀八に会いに行けとジェスチャーしてるんだろうけど。



「てめーら、どういう事だ開けやがれ!」

「いいから早く行けよ」

「もっと詳しく教え、」

「何やってんの、お前?」



ガシャガシャと教室の扉を必死で開けようとしていた時、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。嫌な予感ばりばりで振り向けば、だらし無い格好をした天パの姿。

ああ、最悪だ。







2011/08.11

続きます。


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