君が笑ってくれたらそれだけで、 | ナノ




土方→←初期沖田←性転換神楽




さっき土方さんと大喧嘩した。
朝帰りをした土方さんの着物に密かに香る甘い匂いが喧嘩の原因。
別に土方さんがどこで誰と何をしようがあたしには全然関係ないのに、勝手に怒って、たくさん嫌味を言って、短気な土方がそれに我慢なんて出来る訳なくて。
気づいたらあたし達は周りの迷惑なんて考えず声を張り上げ喧嘩していた。今にも殴りかかりそうな殺気立った雰囲気に隊士達が止めに入りにきたのにも関わらず。
本当馬鹿な事したと思う。

土方がお前には関係ねえだろ、と声を張り上げた時、土方の言葉があまりにも正論すぎて、言い返す言葉が見つからず、あたしは屯所を飛び出した。

特に行く宛てなんかなかったから近くの公園のベンチに腰をかけて、ただ時間が過ぎていくのを頭のどこかで感じながらぼんやり遊具で遊ぶ小さな子供を眺めていた。

(だいたい土方があたしなんかを追いかけてきてくれる筈ないのに)


頭の片隅でそう期待してた自分が馬鹿馬鹿しくなってきて深くため息をつく。
そんな時、不意に肩を掴まれ心臓が飛び跳ねた。



「わッ…て、なんだ神楽かよ…」

「神楽かよってなんだヨ。悪かったな土方じゃなくて」



ぴくり、と肩が揺れたあたしに神楽はゆっくり口角をあげた。そのあと意味深に、ふーん、とかへー、とか勝手に何かに納得している奴をちょっと鬱陶しく思う。
自然とよる眉間に気づいたのか気づいてないのか知らないが、神楽はまだ口角をあげたまま口を開いた。



「で?何が原因であいつと喧嘩した訳デスカ?」

「は!?」



どきり、その言葉がピッタリだろう。そのくらいあたしの心臓は高く脈うった。こいつ、エスパーかなにかかよ。
否定しようと口を開くも、残念ながら他にいい理由が見つからない。なんだか悔しくて、砂を蹴飛ばした。



「どうせ、お前がまた余計な事言ったんだろ」

「うるせーよ。もう口出して来ないでよ」

「お前ら見ててむかつくんだよ」



急に冷たく鋭くなる声。それに驚いて思わず視線を神楽に向けると、いままで見たことないような冷たい表情だった。どかり、とあたしの隣に神楽は座り舌打ちを一つ。
だんだんとあたしもイライラしてきて。なんでこいつにもキレられなきゃなんないの。本当散々な日だ。そう思ったら無償に悔しく悲しくなって目頭が熱くなった。でもこいつに泣き顔なんか見せたくない、という変なプライドが邪魔をして下唇を強く噛み締め、涙をこらえる。



「結局お前らまた気づいたら仲直りしてさ、」

「なんなんだよ本当に、なんで俺じゃないんだよ…」

「は?」



最後の一言が理解できなくてあたしいま、すごく混乱してる。
どういう意味、と聞く暇なんて与えず彼はベラベラと必要以上に口を動かす。こんな神楽を見るのはまた初めてで。
どうしていいのか分からずあたしは口を噤む。本当今日の神楽はあたしの知ってる神楽じゃないみたい。もうなにがなんだかわからない。



「ごめんな」

「なんで謝るの…」

「いまお前すげー泣きそうな顔してる」

「別に……っ」



またごめん、と呟いて頭をぐしゃっと撫でる神楽はあたしのよく知ってる神楽だった。それに酷く安心して、つい気が緩んで涙がぼろりとこぼれた時、彼はふわり、と優しく笑った。



「お前案外泣き虫だよな〜」

「うるさい、しねっ」

「相変わらず口は悪いなー。よしっ、いつもの総羅に戻ってきたみたいだし、んじゃな!あとは後ろの奴に慰めてもらえヨー!あー俺本当、超優しいわ〜!」



後ろの奴…?なんの事かと振り返れば大きく肩で息をする土方の姿。慌てて視線を神楽に向け、ありがとうと珍しく口にすれば、ひらひらと手を振り返事をする遠くなる背中。



「ばっかじゃないの!」



気づいたらあたしは笑ってた。


君が笑ってくれたらそれだけで、
(なんて思える程俺は出来た男じゃない。

「畜生、そのまま一生喧嘩してろヨ」

情けないことに、涙が出そうになった)




性転換神楽はとにかく優しくて、どうしようもないと思う。
土方さんは総羅さんが好きなんだけど不器用だから手出せない。でも性欲はあるわけで。
つまりすれ違いの話を書きたかった。よくわからない。





2011/08.06



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