声涙恋歌 | ナノ



空羽キリリク


初期沖田×沖田←神楽





今ここで私が声を上げて泣いたら目の前のこいつはどんな顔するんだろう。そんな話は聞きたくない、と耳を塞げばどんな顔をするんだろう。でもソレをしないのはきっと私がソレをした時目の前の彼の顔を心のどこかで見たくない、と思ってるからに違いない。



「あのさ、」

「なんでィ」

「あんたは総羅の何処がいいアルか?」



私のほうが、全然あんたに似合ってるアルヨ。
喉まで出かかった真っ黒い言葉を胃の中に押し込んだ。
彼はというと真っ赤になって口をぱくつかせるだけで全然言葉になってない。そんな顔をさせる原因がもし全て私だとしたらこれほど幸福な事はないだろう。無償に悲しくなってきて。でも声を上げて涙を流すなんて事は出来なくて。唇噛み締めて馬鹿にした様に笑う事しか出来なかった。



「別に、何処がいいとかねーけど…」

「はは、全部とか言いやがったら傘でお前をぶち殺すとこだったネ。よかったな、命拾いして」

「お前なあ…」



呆れた様に私を見つめる彼にくすりと笑った。本当馬鹿な奴。
機嫌良いですねィ、と発した言葉はやっぱり馬鹿なこいつにはピッタリで。本当、これの何処がご機嫌に見えるんだか。必死で私が取り繕ってる事も知らないで呑気な奴。
あの少女の事なら表情一つ見逃さず、こんな間違いしないのに。ああ、また嫌な事考えてしまった。彼との会話に集中しようとしても頭の端からだんだんと真っ黒い感情が侵食してきて。気づいたら会話どころじゃなくなる事は多々ある。
きっと今写真でこの場面を撮ったら私だけ真っ黒に写ってんじゃないか、と思うくらい。



「つーかよ、俺は結構お前にす、好きな奴の事話してやすが、お前の口からそんな話でたことねーよな」

「お前にお前の話してもつまらないネ。そんなのも分からないアルか?」

「は?誰が俺の話しろって言いやした?これだから馬鹿は嫌なんでィ」



馬鹿はどっちだよ。ここまで言っても気づかないのはもはや才能と言えるだろう。はあー、と深くため息をつけば、ムッとしたような表情になる彼。本当、私はこんなに彼を理解してるのに彼は私にさっぱりなのはどうも悔しい。でもそれをどうにも出来ないのは分かってるからもどかしくて、息苦しい。解決策なんてもう何処にも見当たらなくて。



「あ、そろそろ総羅迎えに行かなきゃ」

「本当過保護アルネ。あいつももう子供じゃないんだからそんなに心配しなくても…」

「ダメでィ!しらねー野郎に声かけられたらどうすんでさァ!寝言は寝て言いなせェくそチャイナ!」



暴言を吐きちらして、さっさと私に背中を向け走り去っていく。そんな遠くなる背中を消えるまで眺めていた。
ああいう風に私の中にある彼の存在が消えていけばいいのに、なんて思いながら。



「…うるせーよサド野郎」



声涙恋歌
(ぐすり、と鼻を啜れば涙の香りがした)




2011/06.17
初期沖田×沖田←神楽というリクエストなのに初期沖田が出てない…だと…?
うわばばばごめんなさい!
でもキリリクありがとうございました!