油性ペンで書かれた生命線 | ナノ




「ねえ、知ってる?」

「何をだよ」



少女はにんまりと笑うと掌に指を置く。よく意味が理解出来ず、それをじっと見つめてた視線を少女に戻し意味分かんねえ、とそのまま思った事を口にしてみた。すると少女から舌打ちが聞こえ表情は歪む。少女は短気な方だから一回で理解出来なかった俺にじれったさを感じたのだろう。んなこと言われたって分からないものは分からないし、口があんだから言葉にしてほしいものだ。
この少女の理不尽な行動は馴れたものだからもう相手にするのも面倒だし気にする事も少なくなってきた。馴れって本当に怖い。



「本当クソ土方ですね、よく見てくださいよこの線」

「あ?皺だろ、それ」

「はぁ?生命線ですよ!生命線!」

「生命線ってなんだよ」

「あんた馬鹿ですか?生命線も知らないとは本当馬鹿。生命線っつーのはこの線が長けりゃ長いほど長生きできるって線ですよ」



呆れながらも俺の掌の所謂"生命線"とやらを少女の細い指がなぞった。
なんてアホくさい話なんだろう。こんな線一本に自分の死が左右されるはずがない。それよりこの少女がこんな胡散臭い話を信じてる事の方に興味が沸いた。だってあの冷血沈着な総羅が生命線なんて信じるとはもう意外を通り越して笑えてきそうなぐらいだ。
そんな俺の心情を察知したのかきつく睨みつける少女。あ、ちょっと怒ったなコレ。



「あんた絶対あたしを馬鹿にしてんだろ」

「お前案外可愛いとこあんだなって思って」

「ほら馬鹿にしてんじゃねえか!!」

「してないしてない。で?その生命線とやらがなんなわけ?」



少し恥ずかしかったのか、頬をほんのり紅く染めて視線を俺から外した総羅。しばらく口を噤んでいたが、またゆっくり視線を俺に戻した。そしてまた先ほどと同じ言葉を口にすれば、もう答えるしかないと悟ったのか、噤んでいた口をゆっくり開いた。



「……生命線とかってペンで上からなぞって長く書けば本当に線が長くなるらしいで、す」



もう俺は限界だった。笑いを堪える事すらもうどうでもよくなって。とりあえず思いっきり笑ってやった。
案の定少女はまた顔を紅くし、笑うな、とか、死ね、とか、とにかく酷く汚い言葉を口にした。でもそんなんもういい。俺はひたすらありえねー、と声を上げて笑った。



「胡散臭すぎんだろ!そんなんで長生きすんなら世の中ジジババだらけだし!」

「し、知らねーよそんなん!!あたしだってテレビで聞いた話だし!?別に信じてなんてなかったけど!?」

「テレビ!!」



またギャハハハ、と声を上げて笑う俺。もういい、と声を張り上げて少女が部屋から飛び出してしまった頃に俺の笑いはやっと治まった。そんなに怒る事か、と不思議に思ったが追いかける気なんてさらさらない俺はごろり、とそのまま畳に横になった。


明日は大勢の奴らを斬りに行かなきゃならない大仕事なのに。前日に総羅とぎくしゃくしたままでいいのか。でもそっちの方がもし俺が死んで帰ってきた時ざまあみろってあの少女らしく思えそうだからまあ、いっか。それより俺が死を覚悟しちまうなんてらしくねえな、なんて思った。でもそれほど今回のは危険な仕事な訳だ。
だから会議の時、総羅を連れていかないと意見したのは俺で。その意見に賛同したのは近藤さんで。だからあいつは明日は留守番な訳だ。それ以前にそんな大仕事がある事すら知らないはず。だってそれを口にしたらきっとあいつは意地でもついて来るに違いないから。本当厄介な奴。そんな事を呟きながら瞼を閉じた。








「土方さん」

「んぁ?山崎?」

「隊長起きちゃう前に、行きますよ。もう皆さん準備出来てますんで」



瞼を擦りながら時刻を確認すればまだ普段の俺が起きる時間より何時間も早くて。あれから俺は随分と眠っていたらしかった。
わかった、と小さく山崎に返事をすれば背中からピシャリと襖を閉める音が聞こえた。
まだ眠っていたいと嘆く身体に鞭をうって立ち上がる。そして大きく欠伸をした時。ふ、と掌に見慣れない線がある事に気づいた。


油性ペンででかでかと、そして長々と生命線をなぞられたそれは誰がやったかなんて一目瞭然で。
つまり俺に遠回しに長生きしろと言っているその線を書いたあの少女はきっと俺達が危険な仕事に行くことを理解してたに違いないのではないか、と今更気づく訳で。



「本当敵わねーな」





「なあ、山崎」
「なんですか、副長」
「"生命線"って知ってるか?」
(掌に書かれた汚い線はもう二度と消すことは出来ないだろう)




2011/0616
DOGOD69様からお題お借りしました。
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