水葬 | ナノ



神様って信じる?残念だけどあたしは信じない。神様なんて結局人が造りだした幻想にしかすぎないんだからさ。だいたい神様なんていたらね、皆幸せになれるっての。本当人間って馬鹿だよね。そういうのに縋らないとやってけないんだもん。何かに頼らないと生きていけないなんて本当弱い。まあ、そんなあたしも人間なんだけどね。

さて、今あたしの目の前で倒れてるのは誰なのかな。嗚呼、いつも当たり前の様に隣に居た貴方でしたか。ねえねえ、なんで倒れてるの。なんでそんな大きい傷作ってるの。ねえ、誰にやられたの。ねえ、お願い息を止めないで。



「ってェ…、総羅、無事か?」

「なにが、どうなって…」



あ、思い出した。さっきの記憶が蘇る。ピッピッと機械的な音。瞬時にそれが何か分かった。でも逃げ遅れたあたし。もう駄目だ、って時に誰かにおもいっきり突き飛ばされた。瞬間大きな爆発音。瓦礫が頬を掠めて、ぴりっと痛んだ。
はは、全てを理解した時、笑いが零れたのが先か、涙が零れたのが先か。もうどちらでもいい。誰が土方さんをこんなにしたのかって、



あたしが全部やったんじゃん。



力無い手があたしの涙を拭う。泣くな、って消えそうな声が耳に入った。そんなの無理な話だよ。



「なんで助けた!!!」



自分で大きな声を出して、耳がきんっとした。このまま耳が潰れてしまえばいいのに、と頭の何処かで過ぎる。いっぱいいっぱいのあたしとは逆に土方は余裕そうに笑う。
立場上で余裕がないのは土方の方なのに何処までも強い人だよ。



「好きな奴護れて死ねるなんて幸せじゃねェか」



馬鹿じゃねえの。そう思ってた隙に重なる唇。土方の唇はかさついていて、キスの時ぐらい潤わせておけよ。それより初めてのキスはレモンの味がするって何処かで聞いた事あるけど、あんなの嘘っぱちだね。あたしの時は血の味がした。その場には不釣り合いな事を考えてる間に閉じられる瞼。サヨナラまで後何秒あるんだろうか。



「あたしも、あんたが好きだよ」



聞こえてたか、なんてわかんねえよ。後もう少し前に伝えていれたらなんて考えても、後悔先に立たず。今更もう遅い。揺すっても叩いても殴っても土方が目を覚ます事なんてない。

嗚呼、本当情けない。
神様なんて信じないなんて思ってたのにあたしは必死に神頼みをしてる。お願いだから、って。代わりにあたしが、って。神様もいきなりころりと態度を変えたあたしの願いなんて聞き入れるはずなくて。

だから嫌いなんだよ、人間なんてさ。

あんたに縋らなきゃあたし生きてけないんだよ。もう気づいたら生きる意味はあんたになってたんだよ。そんなあんたがこの世からバイバイするなんて、あたしの生きる意味なんてもうとっくにない。



「一生あんたに付き纏ってやるからね」



覚悟しとけ。
ゆっくり刀を抜く。目の前の奴が笑った気がした。



水葬
(貴方と一緒に溺れよう)




2011/05.02

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