振動 ガチャリ、ドアに鍵を挿せばそんな音が鳴った。ゆっくり扉を開く。あいつに俺はどんな顔をすればいいのか、なんて考えたら歩く速度も遅くなる。 今此処で考えたところで答えなんか出るはずなく、俺は大きく深呼吸して部屋に入った。 部屋に入った時、思わず固まってしまった。 少女はソファーの上で足を抱えていたからだ。 普段の横暴な態度からそれは想像出来ないくらい小さく見えて。本当にこいつは総羅なのか、と名前を呼ぶことすら躊躇ってしまった。 あんなに強いと思っていた少女が急に弱々しくなるもんだから、触れたら壊れちまいそうな程弱々しくなるもんだから泣きそうになった。 「おい、総羅、」 少女の隣に腰をかけ、名前を呼んでみる。声は震えてた。 しばらく返事を待ってみるも応答無し。おい、ともう一度呼んでみても同じ結果だ。 懲りずにもう一度名前を呼んで肩を揺らしてみる。ぐたり、と体制を崩した少女の目は閉じられていた。 なんだかホッとしてしまった自分に嫌気がさす。 「酒買って来いっつったのお前だろ…」 はぁー、と深いため息をこぼした時だった。少女の口元がゆっくり動いた。 「ひじか、たさ、」 ピタリと身体が止まった。 なんで俺の名前なんか呼んでんだよ。そう思ったら無性に悲しくなってきて。 いっその事、この少女を起こしてしまおうか、とまた肩に置いた手を動かそうとした時だ。 少女の頬が涙で濡れてる事に気づいてしまった。 最初からこいつは、全然強い訳じゃないんじゃないのか? こいつは自分を強く見せようと、弱いところをけして見せまいと、必死で隠して偽り続けてたんじゃないのか。 それに俺は馬鹿みたいに騙されて。目頭が熱くなった。情けなくて、こいつの事は知り尽くしてるつもりだったのに、理解してたのは表面だけで。全然中まで辿り着いてなくて。 気がつけば乱暴にコンビニの袋をあさって酒に手を伸ばしてた。 「…ごめんッ、」 もう何本目の空き缶を出したのかすら分からない。涙で視界がボロボロなのがいつからなのかも分からない。 なんとなく乱暴に頭を撫でてみる。笑顔の少女が頭に浮かんだ。すると無性にこの少女を抱きしめてやりたくなって。だから思いっきり抱きしめた。寝ているから、なんて油断してたのがそもそもの間違いだったんだ。 急に突き飛ばされ、この状況の思考が追いつかぬまま、思いっきりキスをされた。 急だったから、頭が追いつかなかったから、きっと、嫌じゃなかったんだ。酒に酔っていたからこそ、もっとこの先をしたくなったんだ。総羅の全てを知りたくなったんだ。 ゆっくり手を伸ばし総羅に触れようとした。続きを、しようとしていたんだと思う。 ぽたり、と俺の頬に水滴が降ってきた。 ボロボロ涙を流して嫌いだ、と言葉を零した少女にはっ、とした。 俺は今なんて事をしようとしてたんだろう。 ごめんなさい、と謝罪をした少女に胸が締め付けられた。汚い事を考えていて、謝罪をしなけりゃいけないのは俺なのに。 伸ばした手はそのまま少女の頭を優しく撫でた。俺はずるいからそのまま手を引っ込める事なんて出来ないんだ。どうしても触れたかったから。どうしても近づきたかった。 小さく笑ってみた。自分の都合が良い様に、良い人を演じて魅せた。全力で俺にぶつかってきてくれたこいつとは裏腹に。 嗚呼、なんて俺はクズなんだろう。 (気持ちが揺れ動き始めたのを俺はまだ知らない) 2011/11.11 ← |