浮動 | ナノ




浮動



土方が泊まっていけばなんて言いやがった時あたしの思考は確かに止まった。視線を左右に泳がし、またもごもごと口ごもる。だから撤回の言葉を述べる前に泊まると言ってやった。
気持ちが浮動したまま変な事をぬかしやがったから困らせてやろうと思った。

告白の返事を貰えなかった時正直泣きそうになった。でもあたしのポーカーフェイスがこういう時は役に立つみたいで。普段ならあたしの気持ちの変化を土方はすぐに気づくのに、余程混乱してたんだろう。なんとかバレる事はなかった。まあ、そっちの方が都合良いけど。

あいつを困らせる為に提案を承諾したのに、実際困ってるのはあたしの方だ。告白をして気まずいっていうのは少し考えれば分かった事なのに。あたしらしくない。勿論、あの土方がコミュニケーション能力が優れてるはずなんてなくて無言を決め込んだまま。

もう帰ろうかな。

とは思ったものの、衝動でわざわざ遠くからこちらに出向いたんだ。もう終電なんてあるわけなくて。それに自分から泊まると言ったのにやっぱりやめた、だなんてあたしの変なプライドが許さない。どうしようか、と頭を働かせた時やっと馬鹿土方が口を開いた。



「な、何か飲むか?」

「……」



しばらくだんまりを決め込んで、やっと出た言葉はそれかよ。思わず頭突いてやろうかと思ったけど、冷ややかな視線を奴に向けるだけで勘弁してやろう。すまん、と言ってきたあたりでどうやら効果は抜群らしい。
それに、困ってるのはあたしだけじゃなくあいつもそうだと分かったからもう十分満足したし。

でもこのままぎくしゃくしたままはあたしも嫌だし、奴も同じだろう。だから話をつけてやろうと思った。本当は怖くてあやふやにしていたいけど。

そんなあたしの心情を察してか、隣では深刻な顔をしてる土方。そんな顔から告白の答えは想像出来るけど。ああ、畜生。それでもこいつとあたしの為だと思ったら開いた口を閉じる事は出来なかった。こんなにあたしは気配りが上手でいい女なのに。フッた事後悔しろばか。



「土方さん、正直にフッていいですよ」

「は?」

「だから、さっきの告白の事です。なかった事になんてあたしはしたくないんです。きっとあんたもなかった事になんて出来ないだろうし」

「総、」

「だから正直に気持ち言っちゃってください。無駄な気遣いなんて無用ですぜ」



最後に無理矢理笑ってみた。もうこれで前みたいな関係に戻れるなんてきっと無理なんだろうけど。後悔なんて全然してない。やりきった感の方が強い。



「…ありがとな。でも、ごめん」



やっぱり悲しくて、苦しいよ。
また、あたしは笑った。泣きそうな土方に"ありがとう"と言葉を添えて。



(困らせてごめん、なんて誰が言ってやるもんか)





2011/06.29