外は暗くなり、聞こえるのは俺の荒い息遣いだけ。隣には誰も居ない。そうだ、俺は彼女を見つける事は出来なかった。
あの短時間で何処まで行ったのか、とかあいつの脚力どうなってんだよ、とか色々思う事はあったけどそれよりも落胆する気持ちの方が大きかった。ため息と共に零れたのは白い息。いくら春だからって暗くなりゃ寒いもんは寒い。

あいつが行きそうな所は何度も行った。でも見つける事が出来なかったから彼女は今俺の隣に居ない。もう江戸には居ねえのかな、なんて嫌な考えが過ぎった。
今更だが、こうなるくらいなら最後に意地を張らずに会っておけばよかったと思った。後悔ばかりが生まれるなか、俺は帰ろうと来た道を戻る。
明日もまた捜せばいい。まだ時間はあるさ。そう思わなきゃどうにかなっちまいそうだった。



「さみーなチクショー…」



呟いた言葉は空に散っていった。



――――…



「土方さん」



部屋でぼーっと窓を見ていたら俺を呼ぶ声。振り向いたら後ろに部下が居た。口ごもる山崎はきっとこの先俺にどう言葉をかけていいのか分からないのだろう。
でも生憎今の俺はそんな部下を気遣う余裕なんてない。用がないならでてけ、と冷たく言い放てば小さくすいません、と呟いて山崎はスーっと襖を閉めた。
それでも俺はいつになく無気力で、何も考えようと出来なかった。
俺らしくねえな。そんな事を不意に思った。



「頭冷やすか」



ちょっと外にでも出て落ち着こう。大丈夫きっとあいつは見つかる。だから、少し落ち着こう。
そう思い、上着も着ずに外に出た。なんだか肌寒い。でもいまはそれぐらいの冷たさが丁度良かった。



俺はあれから何分ぐらい外に出ていたのだろうか。きっと自分ではそんなに外には出ていないつもりでもかなりの時間外に居たに違いない。その証拠に肌は触れるとひやりとした。情けなくて笑いがこぼれる。
先ほどより冷静になれた頭で考えてみた。
なにしてんだろな、俺。
驚く程に情けない声がこぼれた。



「土方さん?」



後ろから聞こえた声は妙に聞き覚えがあって。振り返ると、今日一日中探したあいつの姿。
伝えたい事がたくさんありすぎて声にならない。何から話そうか、そう考えていたら先に口を開いたのは彼女のほうだった。



「なにしてんですか、外は寒いですよ?」



ふわり、と笑った少女に胸が痛んだ。ああ、やっぱり俺の知ってる総羅と違うんだって実感したから。でももういいや。こいつに会えたから。もうそれでいい。こいつが無事ならそれで。



「…お前今日どこに居たんだよ」

「なんでですか?」

「……」

「もしかして…、あたしを探してたんですか?」



そっと少女を見ればまっすぐな目とかちあった。思わず反らしてしまえば図星なんですか、と弾んだ声が聞こえた。こいつ、人の気を知らないで。
何か言い返そう、とすればまた総羅が先に口を開いた。



「思い出したいな…、」

「あ?」

「近藤さんの事も、屯所の人達の事も、土方さんの事も」



あれほど過去を思い出そうとするのを拒んでいたのに、どういう心の変化だ。そんな俺の気持ちを悟ったのか、彼女は言葉を続けた。



「貴方達に会えなくなると思ったら、思い出したくて仕方なくなりました。貴方達の思い出がもっと欲しくなっちゃったんです」



勝手ですよね、と呟いた少女を無償に抱きしめてやりたくなった。



(なんでこんなにも世界は残酷なんだ)




2011/04.27




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