この間、久しぶりにむかつく経験をした。

屋上でいつもの様に眠ってる総羅に近づいて、ちょっかい出しに行った時の事だ。
いつもだったら彼女は俺が近づくとすぐに起き上がり、めんどくさそうにまたあんたかよ、なんて呟きながらアイマスクを外す。そして俺は笑顔でおはよう、とか他愛のない会話を彼女の隣に座り繰り出すのだ。
(会話つっても総羅は基本無視か、舌打ちしかしないけど)

俺は総羅の無防備な寝顔なんて見たことがなかった。
そりゃ見たいか見たくないかっていったらもちろん見たい。でも彼女は敏感に人の気配を察知するから特に気になんてしてなかった。銀八が授業をサボる彼女を起こしに行く時も同じ様にすぐに起きてたの見たし。俺も例外ではないのだろう。

そういう子なんだから仕方ないよね、程度にしか思ってなかった。



でもこの間行った時は、俺の大嫌いな土方が彼女の隣に居た。嫌いな理由なんて単純なものなんだけどね。
好きな女と当たり前の様に肩を並べて歩いてる奴なんて好きになんてなれないでしょ?
まあ、そんな感じで俺は酷くムカついたわけ。おい、ふざけんじゃねえよ。そこは俺の特等席だ、って。
でも普段俺には見せない総羅の顔とかあんのかなって不意に思った。だからちょっと遠くから様子を見る事にした。



しばらく見てたけど土方は何もせず、ずっと総羅の隣に居るだけ。総羅も土方に何か話す訳でもなく、ただいつものアイマスクをつけて横になってるだけ。
なんだ、俺の時と一緒じゃん。俺に見せない顔とか土方に見せてる訳じゃないんだ。そう思うと口元が緩んだ。


でも次の瞬間だ。土方は総羅のアイマスクを外した。それはまるで彼女を起こさない様にゆっくりと。
そんなんしたら経験上、総羅は触んな、とかキモい、とか悪態をつくのに彼女の声はまるで聞こえない。あっれー、可笑しいなと少し近づいてみるとどうやら彼女は眠ってるみたいだった。無言でいたわけなんかじゃなかったんだ。
少し遠くからだったから確信なんて得られないかったけど。
でもきっと普段の土方とは考えられない、あの優しそうな、ふわりとした表情を見るかぎりきっと眠っていたに違いない。これはきっと彼女にしか見せない表情。彼女も同じできっと土方にしか見せない表情をしていて。

耐え切れなくて屋上を静かに後にした。らしくない事したな、って今でも思う。




「あー、幼なじみってずるいなー」



口に出してみた。空虚さが込み上げてきた。ムカついた。
何で俺が彼女の幼なじみじゃないんだろう。何で俺が彼女の隣に居ないんだろう。何で彼女は。

何で。何で。何で。何で。何で。何でよ。



何で俺じゃないの。



きっと幼なじみとはまた別の感情をお互いが持ってるのなんて分かってた。もしも俺が彼女の幼なじみだったとしても、きっと彼女は同じように土方に惹かれる事なんて分かってたさ。どんなに足掻いても無駄だ、って。
でも幼なじみだからきっと、そう思う事で俺は冷静を保てた。
ムカつく。土方を殺せば、なんて考えが頭を過ぎったけど、そんな事したら彼女は涙を流して壊れてしまうだろう。




「離れ離れになりゃいいのに。そしたら俺のところに、」




無理だよ、って誰かに囁かれた気がした。
嗚呼、虚しい。





(お願いだから幸せになんてならないで)






2011/04.17


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