「今までありがとうございました」

「たまには顔見せに来いよ」

「たまにじゃないと駄目ですか?」



泣きそうな近藤さんに、冗談っぽく言い放つす少女。あ、近藤さん泣いた。
総羅ー、と涙声が後ろから聞こえたのを最後に俺は部屋の扉を閉めた。

あの時、少女が真選組を出ると自分に言った時もし俺が引き止めていたら、そんな事が頭を過ぎった。過ぎた事は仕方ないのに何でこんなに自分は悔やんでるんだろう。
仕方ない、で片付けたくないのは何でだろう。



「クソッ」



畳に拳を叩きつけた。そんな事しても少女が戻ってくる事はないのに、無駄な行為だって分かってるのに何かに当たりたかった。もやもやする気持ちをどうにかしたかった。

幼い頃からずっと肩を並べて歩いてきた。どんなに遅れをとろうが、どんなに先に行こうが、お互いが向かう先は同じな筈だった。
なのにあいつは気づいたら、俺とは全く逆の道を歩もうとしてやがる。このままいけばきっと俺達はもう交わる事なんてないだろう。隣に居て当たり前だった奴が急に居なくなりゃ、変な感じはする。どうせすぐ慣れるだろう、と強がる事しか今は出来なかった。




「トシ、挨拶しなくてよかったのか?」



いらねえよ、と背中越しに聞こえる近藤さんの声に返す。そうか、と聞こえた声は心なしか元気がなかった。
きっと近藤さんは総羅を真選組から出すのは嫌だったに違いない。それは戦力になるからというのもあるだろうけど、きっと1番の理由は彼女とはあまりにも長く一緒にいてきたからだろう。
それでも総羅の意見を1番に尊重したのはきっと優しすぎる性格からだ。本当この人は自分の事より相手の事ばかりだ。馬鹿だよな、って思う。

でも近藤さんが行くな、って彼女に言うのを心の何処かで期待していた俺はもっと馬鹿なのかもしれない。



「たまには素直になってやるのもいいと思うがな」



それだけ言って去っていく背中を黙って見つめる。
素直、ねぇ。思わず口に出してしまった。"素直"だなんて馬鹿げてる。そんなのしなくても相手の腹の中は大概読めてるのによ。
ああ、でも今の総羅は何考えてるか分かんねえや。嘲笑した。これほど誰かに殴られたいと思った事はない。もう痛みでいいから、彼女を忘れさせてくれ。思いっきり手の甲を抓った。痛い。



「何やってんだかな、俺」



赤くなる手の甲を見て無償に泣きそうになった。忘れられる筈なんてねえじゃねえか。殴られても、刺されても、死んでも忘れる事なんて出来ねえよ。
もうそれほどまで、俺の中で彼女は大切な人になってたんだ。
気づいた時にはもう彼女はあまりにも遠くに居て。

"たまには素直になってやるのもいいと思うがな"

近藤さんの言葉が頭の中で反響した。畜生、今からでも間に合うか。誰に問うわけでもないのに口に出した言葉。答えなんていらないのに。


間に合わないんじゃなくて、間に合わせるんだ。




(待ってろ、今すぐその距離縮めてやる)





2011/04.19




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