一瞬だけ見せたよく知った彼女が現れてからもう何日たっただろうか。あれからその姿は見ていない。あれは本当に幻だったんじゃないか、というくらいに。
どれが本当でどれが嘘か、もう分からなくなってきた。きっと全部真実なんだろうけど。

やっぱり今も彼女は刀を握ってない。ただ俺達の稽古をぼんやり見つめてるだけ。この間は竹刀を渡してみた。それを受け取ってはみるも、ただやっぱり見つめてるだけ。振ってみろ、と言っても彼女はただ笑ってごまかす。本当に無駄な毎日を過ごしてる。



「あたしこのまま記憶が戻らなくてもいいと思うんですよね」

何言ってんだ、と嘲笑う。でも彼女は本気みたいで。あたしはこのままで満足です、と続けた。笑顔が消えた。正直笑おうとしても無理だった。冗談でも言ってほしくなかった言葉。
また怒りが沸き上がる。昔の総羅も随分と生意気で俺をイライラさせた。でも今回は質が悪すぎる。

ふざけんな、この言葉がぐるぐる頭の中で回った。



「お前本当に気にくわねェ、なんでそんな言葉を平気で言えるんだか」

「いいですよ気にくわなくても。どうせあたし此処を出る事にしましたし」

「あ?」

「だから真選組を出るんですよ。もう皆に迷惑かけたくないんで」



また質の悪い冗談を。
彼女があまりにも真剣な目をしてるから視線を外した。なんだよそれ。
近藤さん泣いちまうぞ、と冗談っぽく言ってみた。彼女は眉を下げ困った顔でそれが問題なんです、なんて言い放つ。
はは、



「もう勝手にしろよ、」



柄にもなく泣きそうになった。もうどうにでもなれよ。こんなクソガキすぐに忘れてやる。目頭が熱くなる。上を向いた。誰がこんな女の為に泣いてやるか。
横から向けられた視線には合わせてやらない。なんでだよ、なんて呟く。返事はない。いいさ、独り言だから返事なんていらない。



「あたしはね、」



突然彼女が口を開いた。視線を少しだけ総羅に向けた。泣きそうな彼女の横顔が見えた。
おいおい、なんでお前がそんな顔してんだよ。泣きたいのはどっちだかわかるだろ?やめろよ。
こんな気持ち伝わる筈なくて。彼女の眉が下がった。彼女の唇が噛み締められた。ちょっとでも彼女に触れたら壊れてしまう気がした。
なんで、また同じ言葉が口から零れた。やっぱり返事はない。
縁側に座っていた彼女はゆっくり立ち上がるこちらを見つめて、



「横暴で、自分勝手な貴方が何故か不思議な事に嫌いになれませんでした」



「あたし、結構好きでしたよ?貴方の事」



彼女の瞳から涙がこぼれた。眉は下がったままなのに、ふわりと微笑む。
俺だって、喉まで出かかった言葉は結局声になる事はなかった。




(剣を握れないあたしなんてもう用済みでしょ?)

2011/0407




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