土初沖


「沖田さん沖田さん!おはようございます!今日何の日か分かりますか!?」


この質問は何度目だろうか。
あたしは知らねーよ、と言い放ってから仕事しろと続ければ隊士達は肩を落として去って行った。
奴らは唯一の女隊士のあたしからチョコレートを貰おうとしていたのだろう。これだからモテない男の集団は嫌なんだ。
バレンタイン、なんてただ面倒なだけじゃねえか。


「あたしはあげるより貰いたい側だっつーの」


木製のテーブルに置いてある煎餅を一つ掴み口に運ぶ。
バリボリと心地好い音を立て、それは溶けていった。
テレビはどれを見ても、バレンタイン特集やら、とにかくバレンタイン一色。
CMまでもそうだ。あたしは溜め息を零してから愛用のアイマスクを目元まで下げようとした。


「おい、沖田コラ」



頭上から降ってくるのは、土方の声。勝手に人の部屋に入って来やがって。
こっちはゆっくり寝るつもりだったのに。舌打ちをしてからあたしは口を開いた。


「あんたも暇ですねィ、あたしばかりに構って」


するとお前が仕事しねえからだろうが!といつもの調子で返ってくる。
どこぞのモテない隊士と違ってこいつはバレンタインとかどうでもいいんだろう。だって土方に想いを寄せる奴なんかいくらでもいる。
チョコレートを貰ったところで甘い物が苦手なこいつは迷惑でしかないんだろうし。


「今年は何個ですかィ?」

「あ?何がだよ」

「だからチョコレート」

「貰ってねえけど?」


平然とそう言う土方は、きっとチョコレートを貰えなかった訳ではないんだろう。

いらないから全部返したんだ。

一生懸命チョコレート作った女の子達可哀相、と思ってもない事を口にすればうるせえと返ってきた。
そっとポケットの中に手を入れてみれば、確かにある四角い箱。
土方にあげようか、なんて馬鹿な事考えたもんだ。それが手作りだから尚更。
何浮かれてんだか。どうせどこぞの女の子達の様に返されるのに。


「なんで返却しちゃうかなー、あたしが食べたかったのに」


枕にしていた座布団に顔を押し付ける。
ポケットの中のチョコレートは自分で食べてしまおう。あたしは甘い物が好きだから、万々歳だ。
心はちくちくと痛かったけどそんなの知るもんか。返却された時の方が辛いと分かってるから、自分でそう選択したのに。本当馬鹿げてる。


「そんなに食いてぇなら、自分のポケットに入ってるそれを食うこったな」


ぴくりと肩が揺れた。
こいつ分かってやがった。
畜生むかつく。
あたしは冷たくそうするつもりでした、なんて可愛いげもない事言えば奴はあたしの隣にどかりと座り込んだ。


「なんだよ、仕事しろよ土方」

「お前に言われたかねえよ、それより急に甘いもんが食いたくなった。てめぇのそれ寄越せ」

「甘いもん嫌いな奴がよく言いますねィ。それにあんたが自分で食えって言ったのに」

「うるせえよ」


そう言ってそっぽを向く土方。
少し躊躇いながらもポケットから、チョコレートを出して土方の後頭部に思いっきりぶつける。
いってえ、と叫ぶ土方。きっと角が当たったんだろう。


「本当可愛くねえな」

「うるせえよ、さっさとそれ食ってどっか行きやがれ」

「甘ェ」


そう言って、土方は眉間にシワを寄せる。だったら食わなきゃいいのに、土方はまた一粒形の悪いトリュフを口に運んだ。


「土方コノヤロー」

「あ?」

「…あたしあんたの事嫌いじゃないですぜ」


急に恥ずかしくなって、視線を下に向ければ土方は小さく笑った。
なんでこんな事を言ったのか自分でも分からない。でも言いたくなったから言った。それだけ。


「知ってる。お前が素直じゃねえのもな」

「うるせえよ」

「そういうところも全部、嫌いじゃねえけどな」


馬鹿みたいに心臓が高鳴って。こいつはこんなに余裕だし。あたしだけが追い詰められてるみたいで。悔しい。
全部こいつに見透かされてるみたいで。畜生あたしだってあんたのそういうところも全部嫌いじゃねえよ馬鹿。



(それは、素直になれないあたしが頑張る日。)




過去拍手でした。



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