「また来たんですか、土方さん。今日だけで二回目ですよ」
「うるせえよ」
病室のベッドに座りこちらを見てふわり、と笑う少女に胸が痛んだ。そこには昔の、俺が知ってる少女の面影が皆無だったから。
"死ね土方"
口癖の様に言っていた言葉がもう少女の口からは出ない。鬼神の様に剣を振るう少女はもう居ない。
そこに居るのは1番隊隊長沖田総羅ではなく、ただの少女だ。
下を向く。自然と拳に力が入った。
俺はまっすぐで、迷いなんて微塵もなくて、剣だけを見る少女は嫌いじゃなかった。ずっとこいつの隣で、俺等の大切な大将を護っていけると信じてたのによ。
なのに、なんだよこの様は。口に出た。不思議そうに俺を見る少女に酷くイラついた。
「なんでテメェは…ッ!!」
胸ぐらを掴んで声を張り上げた。少女は酷く脅えた目をして俺を見ていた。
違う、違う。俺の知ってる総羅はここで憎まれ口を叩くんだ。汚い手で触るんじゃねェよ、って。なのに俺の望んでいた言葉は少女から出なくて、かわりに呼吸が乱れていた。
(何してんだよ、俺)
ゆっくり胸ぐらを掴んでいた手を離し、すまんと呟く。怖いと聞こえた声は震えていた。
お前は絶対俺に弱みを見せなかったのに、今じゃ顔面青白くしてさ。本当、なんでなんだよ。
「土方さんはあたしのなんなんですか?」
不意に聞こえた声。まだ声は震えていた。視線を総羅に向ける。脅えきった目とぶつかる。思わず逸らしてしまった。
なんなんだ、って。
幼なじみと言ってもいいがそれじゃあ何かが違う気がした。
俺と総羅の関係。周りから見たら上司と部下。でもそれも違う気がして。
例えるなら、
「悪友」
「悪友、ですか」
「お前は本当に最悪な奴だった。顔を合わせば俺に刀を向けてよ」
「刀!?えっとなんかすいません」
苦笑いを浮かべる総羅を少しだけ横目で見てから、視線を窓に移す。
空はムカつく程に快晴で。こんな俺を嘲笑ってるかのようだった。
少女は少しだけ俺の視線を追って窓に移したが、またすぐに俺の目を見つめる。
「でも、嫌いじゃなかった」
「土方さんの命を狙う様な奴だったんですよ、あたし」
「それでも嫌いじゃなかった。それに、お前の剣の腕は真選組一だったんだぞ」
「すごかったんですね」
他人事のように呟く少女の前に刀を差し出した。見覚えはないか、と言えばないと返ってくる。
差し出した刀は総羅が愛用していた物。思い出すかも、なんて淡い期待をしていた俺が馬鹿だった。そんなに簡単に記憶が戻る訳ねえのに。
触れてみろ、と言っても少女が刀に触れる様子はなかった。
「…これで何人あたしは人を殺したんでしょうかね」
「さあな」
「あたしは、この怪我が治ったらまた人を斬らなきゃいけないんですか」
「お前、何言ってんの」
「あたしは、普通に、平凡に生きていく事は許されないんですか?」
「近藤さんを、お前は近藤さんを護るって誓ったんじゃねェのかよッ!!」
「覚えてないんですよ、全部」
ごめんもう笑えない
(少女の口から出た言葉は残酷すぎた)
2011/0402
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