笑ってしまう。別に可笑しい事なんて何もないのに。
"殺人マシーン"別にそれでもいいと思ってた。だってあの人の為ならなんだって出来るって思ってたから。
じわり、視界が歪む。
なんでだろう。普通の幸せなんて望んでなかったのにな。
なんでだろう。女になんて生まれたくなかったのにな。


なんでだろう。なんでこんなに悲しいんだろう。



「あんたなんて人を殺すしか能がないじゃない!!」



遠くで高い声が聞こえた。
その女はあたしが殺した人の愛人と思われる。
別になんとでも言えばいいのに。だってその通りだから。
昔から剣の事しか頭になかったからなんでこの女が泣いてるのか分からなかった。
なんで腹を斬られてもう息さえしてない奴を庇うようにしてるのか分からなかった。
なんでさっさと自分だけ逃げようと、命乞いしないのか分からなかった。
女の目からは涙が溢れてるのに、その瞳からあたしへの恐怖を感じ取れなかった。むしろ好戦的な瞳をしていたように思える。
構えた傘を下ろして、女に背を向ければ叫び声。私も殺して、だなんてさ。



「意味、分からないよあんた」

「お前みたいな奴にあたしの気持ちが分かられてたまるもんかい」

「なんで死にたいの」

「死ぬならこの人と一緒にって決めてたもんでね。」

「なんで」



「あんたには絶対女の幸せなんて分かりゃしないよ、だってあんたはただの"殺人マシーン"だから」



その女が放った言葉と傘で首を取ったのはほぼ同時だった。
何がそんなに悔しかったのかなんて分からない。ただすごく悔しかった。
その気持ちに名前をつけるならきっと"嫉妬"。
でも何に嫉妬してるのか分からない。
底から沸き上がるような怒り。それがどんどん溢れて。奥歯が鳴る。足りない。怒りを発散するにはまだ、まだ、



「沖田…ッ!!」



それからはもう覚えてない。ただ後ろで馬鹿土方の声が聞こえただけ。
目が覚めたらあたしは屯所に居た。身体には見慣れない痣があった。目の前には壁に寄り掛かって眠ってる土方の姿があった。
分からないけど急に涙が込み上げてきて。嗚咽が止められなくて。



「沖田…?」



あたしのせいで目が覚めた様子の土方。そんなの気にする余裕すらなくて。どうして泣いてるのか自分でも分からなくて。
どうやったら涙が止まるのだろうか。
忙しく流れる涙とは裏腹にあたしの思考は酷く落ち着いていた。
なんでだろう、なんで、なんで、



「なんであたし生きてるんだろう」



ぽつりと零れた言葉。別に土方に聞かせる気なんてこれっぽっちもなかった。
なのに土方ったら目を見開いてさ。笑える。
だから土方に、なんでだろうね、って問い掛けてやった。
涙はもう止まっていた。



「ばっかじゃねえの!!お前本当馬鹿!!」



するとすぐにあたしを愚弄する言葉が返ってきて。おまけにきつく抱きしめられた。作った覚えのない痣が痛む。
見覚えのない痣はなんなんですか、と問い掛けてるのに返事はなかった。
そのかわりに小刻みに震える大きな背中。その時だけはその背中がなぜか小さく見えた。



「…ごめんな」

「ねえ、土方さん。なんで謝るの」



きっとこの謝罪は普通の女として生きてけなくて、普通の女として幸せにしてやれなくて、という意味だろう。
馬鹿みたい。そんなのあたしはこれっぽっちも望んでないのに。
何を今更、って鼻で笑ってやった。
あたしは近藤さんを命かけて護れたら幸せなの。
あんたと一緒に大将を護れたら幸せなの。


あんたの隣に居られればもうそれで"幸せ"なの。



後悔なんて今までしたことないよって、もう十分すぎるよって。そう言えば馬鹿土方の腕に力が入った。

今も十分幸せだけど、でもさ、もっと欲を言えばさ、



「"女の幸せ"ってのも体験してみたかったな」



生まれ変わったらでいいけどね、って付け足して。
耳元で鼻を啜る音と、馬鹿野郎って声が聞こえた。




(来世も貴方と一緒に、)





2011/0402


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -