「…土方さん」

「…あ?」



もう夜遅く、ザーザーと雨の音しか聞こえない。その一定に聞こえる雨音を子守唄がわりに、眠ろうとしていた時だ。
ゆっくり襖が開く音が聞こえ、閉じていた瞼を開く。すると枕を片手に突っ立ってる少女が居た。
こんな深夜に何事かと聞いてみれば無言で近づき、俺の頭の上にちょこんと座り込む。
その表情は何かに怯えている様だった。



「よ、夜這いに来ました」

「…馬鹿言ってねぇで、さっさと部屋戻れ」

「…え、と今日此処で寝ちゃ駄目ですか?」



目をあちこちに泳がせ、不安そうに尋ねる。総羅の声は何故だか震えていた。
やっと片手に抱えた枕の意味が理解出来た俺は呆れながらも、拒絶の言葉を述べる。
そりゃ、いくら幼い頃から彼女を知ってるとはいえ一応、俺達は異性だ。そんな簡単に承認する訳にはいかない。



「じゃあ此処に居るだけなんで!本当あんたに迷惑かけないし」

「もう俺の睡眠を邪魔した時点で迷惑かけてるだろ」

「……」



ついには無言になる総羅にため息を零しながら、俺は布団から出て彼女と向かい合う。
総羅は俺と目を合わせようとはしなかった。
死ぬ程憎い相手に"一緒に寝てくれないか"と頼むのは彼女にとってさぞ屈辱だったのだろう。
だったら何故俺なんかに頼んだのだろうか。そんな俺の気持ちを読み取ったのか、総羅はぽつりと呟いた。



「近藤さんを起こしちゃ悪いと思って、」

「俺は起こしていいのかよ」

「あんたはそのまま野垂れ死ねばいい」

「てめぇ…」

「ねぇ、どうしても駄目ですか?」



懲りもせずもう一度訴えかける総羅。何でそんなに誰かと一緒に居たいんだよ、と問い掛ければまたもや彼女は無言になった。
言いたくない事なのは分かったが、納得いく理由もなく一緒に寝ることは出来ない。
さっさと部屋に戻れ、と冷たく言い放ったのにも関わらず、まだそこから移動しようとしない彼女。気にせず寝てやろうと俺が布団に潜り込もうとした時だ。



「ひゃっ、」



ゴロゴロと雷が鳴る音と、総羅が俺にしがみついて来たのはほぼ同時だった。
普段の彼女からは想像出来ないくらい身体を小さくして、震える手で必死に俺の着流しを掴む。
ああ、一緒に寝ようと言った理由が分かった。それを口にしなかったのはきっと俺に弱みを握られまい、と変なプライドが勝っていたからだろう。



「…すいません、部屋戻りますね」



目には涙を一杯溜め、俯く彼女。そんな顔されたら断れるはずなんてなくて、結局俺は立ち上がろうとする彼女の手を掴んでしまうのだった。
きっとこうやって俺達が甘やかしたから我が儘になっちまったのかな、と小さく苦笑いを浮かべる。



「今日だけだぞ」

「あ、ありがとうございます」



それだけ言って、彼女と俺は同じ一枚の布団に潜り込んだ。

一人で寝ていた時と随分違い、暖かかった。




(無意識に俺にしがみつく彼女に、たまにはこんなのも有りだな、なんて思ってしまった)





2011/03.22
雷に怯える総羅さん可愛いと思う。