僕たちはトウヤと別れてから、図書館にNと一緒に向かってる。


「チェレン君、どうしたの?さっきから元気なさそうだけど」

「…そうでもないよ」


不意にNが僕にそう聞いてきた。
だけど、僕の答えに納得出来ないのか、彼は一瞬顔をしかめたが、すぐにふんわり笑ってそう、と呟いた。
ごめんねN、どうしても最後に見たトウヤの寂しそうな表情が頭から離れないんだ。
きっとあいつの事だから、急にいつも一緒にいた僕が、Nを連れまわしているから孤独を感じてるんだろう。
でもごめんねトウヤ、僕今回は本当にNの事譲りたくないんだ。


「チェレン君さ、トウヤ君の事気にしてるでしょ」

「え?」

「ほら、やっぱり」


Nは世間知らずで、鈍感な奴だとばかり思ってたけど、どうやら鋭いところもあるようだ。


「意外に鋭いんだね」

「トモダチの事だったら僕はなんでも分かるよ!」


そんな事を平然と言うNに、なぜか僕の頬は赤く染まる。
別に深い意味なんてない事は分かってるけど、そんなに僕を見てくれたんだと自惚れてしまって。
ずいぶん僕は彼に溺れてるようだ。


「君、トウヤ君の事好きなんでしょ?」

「は?」


あまりにも予想外な展開に、マヌケな声を出してしまった。
先ほどNは、鋭いところもあると言ったけど前言撤回。
なんでそうなってしまうんだ。


「あのね、」

「大丈夫だよ、照れなくても!」


なんだかメンドーな事になってきた気がする。
確かに僕はトウヤが好きだ。
でもそれは恋愛感情なんかじゃない。僕が本当に好きなのはまぎれもなく、今僕の目の前に居る鈍感な奴であって、トウヤではないのだ。


「お願いN、聞いて」

「なんだい?」

「僕は確かにトウヤは好きだ」

「やっぱり?僕の勘は良く当たるんだよ」


ちょっと頼むから黙ってくれないか、天然で鈍感なN。何が僕の勘は良く当たる、だよ。全く、びっくりするぐらい当たってないよ。
普段の僕だったら、笑ってるところだが、状況が状況だ。
こぼれるのは苦笑いとため息のみ。


「お願い、はやとちりしないで」

「あ、図書館見えてきた!早く行こうよ」


僕の話を堂々と無視し、僕の手を引いて笑顔で走り出すN。その笑顔は輝いていた。
可愛いな、なんて思ったけど僕には彼の誤解を解かなければいけないという役目がある。でももう少しきらきら輝く彼の笑顔を眺めていたい気もした。


───……



「何の本読もうかなー」


ニコニコとたくさんの本を、棚から出しては戻しを繰り返すNをぼんやり見つめる。
どうやら今のNにとって、僕がトウヤを好きという話より本の方が興味があるらしい。
彼にはもうどうでもいい事でも、僕にはどうでもよくないんだ。むしろ大問題。
頭からその事が離れなくて、本の内容なんか全く頭に入らない。
Nは一人葛藤する僕なんか知らずに、気になる本を見つけたみたいだ。
そしてスキップでその本を持ってきて、僕の前の席に座り読み始める。


「N」

「……」


すごい集中力だ。
もう本に引き込まれたのか、僕の声なんて届いてない。
少し本に妬いてしまった。
きっとNはしばらく、このままなんだろう。
またため息を一つこぼしてから、読みかけの本をパタリと閉じた。




(また随分メンドーな事になったよ)



2010/12.07





 
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