それは俺が副長の部屋に行った時だ。
調度頼まれた書類を届けに部屋に向かい、そして襖を開けた瞬間。



「総羅、」

「なんすか、十四郎さん」



ピタリと動きが止まる副長。それは俺も同じで。
まさか沖田隊長から副長の名前が出るとは思わなくて、思わず手に持っていた大量の書類はバサバサと音を立てて、綺麗に床に落ちた。
副長の反応だけではなく、突然やって来た俺の反応にまで満足したのか、吹き出す沖田隊長と、それを睨みつける副長。
普通の人だと大概その睨みにビビって笑顔なんて消えるのに、どうやら彼女は肝が据わってるらしく、まだ笑顔が消える事はない。



「あー、あんたらの反応最高!」

「テメェ…」

「そんなに怒りなさんな、ハゲますよ」

「誰のせいだよ!」



またいつも通りに喧嘩を始める二人。もう俺なんて茅の外だ。
今にも斬りかかりそうな勢いの副長と、そんなの全然気にした様子もない沖田隊長。終いには副長の怒りを止めようとするどころか、彼女は近くに落ちてたリモコンを副長目掛けて投げつけた。まさに火に油を注いだ状態である。
それでも沖田隊長はケラケラ笑ってるだけ。ある意味尊敬する。
斬るか斬らないかの危険な喧嘩を彼女達はしてるというのに、俺も、騒ぎを聞き付けてたのにも関わらずこちらにやって来ない隊員も、彼女達の喧嘩を止めないのはきっと俺と同じ理由にちがいない。
彼女達があまりによく喧嘩をするもんだから、見慣れてしまったのだ。
どんどん散らかる副長の部屋。それでも彼女を追い出さず、相手をしている副長。
そんな副長の気持ちに気付いていたりなんてしたら、こんな危険な光景も不思議と微笑ましく見えてくる。



「あんたからかうの飽きたんで、もう他あたります」

「なんだとコラ」

「うるさい死ね土方」



それだけ言って、彼女は面倒臭そうに腰をあげ、部屋をでていった。
ぴしゃりと襖が閉められた音だけが部屋に響く。
ありえない光景に目を疑いたくなる。
あの沖田隊長が、副長をからかう事だけが趣味のような沖田隊長が飽きたからと部屋を出て行った。
暫しの沈黙。その沈黙を破ったのは俺だった。



「ええええ!?」

「山崎五月蝿い」

「あの沖田隊長が!?ええええ!ちょ、副長何かしたんですか!?」

「何で俺が悪いって前提なんだよ」


まだ落ち着きを取り戻す事ができない俺。いつもだったらこんなに騒いでいたらうるせェ、と手を出しても可笑しくないのに、副長はただずっと先ほど沖田隊長がでていった襖を見つめているだけだった。



「副長」

「あ?」

「素直になったらどうですか。あのままだったら本格的に沖田隊長貴方から離れていっちゃいますよ」

「……」



二人の間に何があったのか、なんて分からない。でもお互いが不器用だから。俺がこうやって言ってあげないと。
二人の間で仲裁してやってる身にもなって下さいよ、とため息まじりに言ってやれば、副長はうるせェと一言だけ呟いてまた、沖田隊長と同じように部屋からでていった。
何であの人達は不器用で、素直じゃなくて、鈍感なんだろうか。

きっと二人の気持ちを知ってるのは、お互いが同じ気持ちだって知ってるのは、今は俺だけだ。

小さく笑いながら、手に持ってる大量の書類を見つめる。
さて、この大量の書類はどうすればいいのやら。





(自然と不器用な二人がくっつくのを俺は見届けるだけ。)




2011/03.10


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