特にやる事もなく、俺は太陽の光があんまり射さない裏の道にいた。まあ俺は堂々と表に出れるような奴じゃないからね。
そしたらなんでか攘夷浪士の奴らに囲まれて。弱い奴には興味はないんだけど、あいにく俺は暇を持て余していた。
相手ぐらいしてやろうと、斬りかかってくる奴らを片っ端から殺っていった。


「つまんないの」


やっぱり強い奴なんていなくて。人数が多けりゃ勝てるなんて弱い奴の考える事なのに。
でも殺られるのを分かってるのに俺に斬りかかってくる信念は認めてあげよう。


「そうらー!こっちは危ないってお母さんが言ってたから、違うところに行こうよー」

「そうだね」


遠くから聞こえたその声に、俺は一瞬だけ気を取られてしまった。それは俺が好意をもってる人の名前で。
本人じゃない事ぐらい頭では理解できてたのに、身体がその名前に反応してしまって、その時だった。


「わあああ!!!」


うるさく騒ぎ立て、俺の首を目掛けて斬りかかってきた。すぐにそれを交わしたけど全部は交わしきれなかったらしく、お腹の部分に激痛が走った。
どろりと服を汚すそれは紛れも無く俺の血で、ああ刺されたんだって理解出来た。


「いったいなあー」


そのまま刀を抜こうとする奴に、させるものかと刀を掴む。そして空いてる手で首元目掛けて叩いた。
やっぱり人間って貧弱。それだけで奴の首から血飛沫がとんで倒れる。
俺は少し丈夫だから腹を刺されたぐらいで、戦えなくなる訳じゃなく、他の奴らを全員殺るのにそこまで時間はかからなかった。
よろよろと、汚い壁に寄り掛かりそのまま座り込む。どうやら少し血を流しすぎたみたいだ。頭がクラクラして視界が揺れる。


「あー、ちょっとやばいかもネ」


ぐっ、と刺さったままの刀を抜き、その場に投げ捨てる。カラン、と寂しく音を立て地面に落ちる刀は何だか惨めだった。
視界がだんだんぼやけてきて、そろそろ本当に自分の命の危機を感じた。
俺はそりゃあ人間なんかより丈夫だけど、首を斬られりゃ死ぬし、血を流しすぎても死ぬ。
頭の中でチラつくあの娘。最後に一目でいいから見たかった。こんな事になるぐらいなら、無理矢理でも一発かませばよかったかな、なんて思ったけどあの娘の泣く姿なんてこの世で一番みたくない。でも手ぐらい握りたかった。
遠くから聞こえる足音は俺にとどめを刺しに来た奴ら。別に逃げようなんて思わなかった。死ぬのが怖い訳じゃないし、それもいいかななんて思えてきたから。
だって負けた奴は潔く消えんのがこの世界の決まりなんだからさ。俺はそれに従うよ。
足音は俺の目の前で止まって、すぐにひゅっと風をきる音。きっと刀を振り上げた音だ。
その瞬間、別の足音が聞こえ誰かが倒れる音。何が起きたんだかわからない。


「あんた、何そんなところでくたばってんでィ」


俺の上から聞こえた声は、愛しいあの娘の声。
ゆっくり上を向いたら、刀を肩に置きめんどくさそうに俺を見下ろすあの娘の姿が。


「総羅、なんで?」

「なんでって、あんだけ派手に暴れられてこっちに連絡一つ来ないと思ってんですかィ」

「総羅が助けてくれるなんて珍しい事もあるもんだネ」

「勘違いしないでくだせェ、あいつは攘夷浪士。あたしらの敵でさァ。だから斬った、それだけの事」

「ひっどいなあ、嘘でも助けたって言ってくれてもいいのに」


そう言って軽く笑ってみる。でも総羅が言ってる事も確かだからそれ以上は言わない。
何やら急にがちゃがちゃと、音を立てる彼女を不思議に思い視線を向けると、ベルトを外してるようだった。
そしてそのベルトを、先ほどからダラダラと血が流れ続けてる俺のお腹に、強く縛りつける。


「…ねえ、何してんの?」

「うるさい」

「応急処置ってやつしてくれてんの?でも俺これ以上動ける自信ないんだけど」

「うるさい」

「ねえ総羅、俺あんたに殺されるんなら大歓迎だヨ、むしろそうしてよ」


瞬間、パンといい音と同時に感じる頬の痛み。怪我人に躊躇いなくビンタを食らわすのは彼女だけだと思う。


「ふざけんじゃねえぞてめえ!!あんたが歩けねえってんならあたしが肩ぐらいかしてやりまさァ!散々人の事追い回して自分が死にそうになりゃそれかよ!」

「はは、自分が何言ってるか分かってるの?大事な仲間を裏切る事になるんだヨ?」

「もうてめえを捕まえようとしない時点で裏切ってんだよ。だいたいあんたにかしたそのベルト、かなり大事なもんなんだよね」

「勝手に手当てしたの総羅じゃん」

「うるせえよ、綺麗に洗って返さなきゃてめえ絶対殺すからな」


そう憎まれ口を叩く総羅の目には涙が溜まっていて。ああ、俺この約束守らなきゃ世界一見たくないものを見ちゃう事になりそうだね。
もう動かないと思っていた身体に鞭を打ち無理矢理立たせた。


「あんた、あたしの事振り向かせてえんだろィ?だったらそんな変な事言わない事ですねィ。あたしは弱い男は嫌いでさァ」


口端を上げてそう言う彼女はずるいと思った。そんなの言われたらもう俺は死ぬ訳にはいかない。
彼女は俺の腕を自分の肩にかけ一言呟いた。


「…その傷治ったら、甘味処ぐらい付き合いやすから、さっさと治すこった」

「俺、総羅の手、握りたいんだけど」

「だあああ!傷が治ったらな!」



(この人の笑顔をずっと護りたいと思った。
「ねえ、キスもいいよね」
「あんまり調子のんな」)





2011/02.09





 
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