土方←総羅←神威
「そーうらちゃん」
いつもの様にベンチで寝ていた時の事だ。今日もサボり日和だな、なんて思いながら眠ろうとしていた時そいつは現れた。
やっと会えた、なんて言いながらあたしの隣に腰をかけるそいつを蹴り落としてやろうと、足を振り上げるもいとも簡単に掴まれて阻止される。
「寝るなら俺の膝かそうか?枕にしてもいいよ。むしろそうしてヨ」
「おいストーカー、3秒以内にあたしの視界から消えないとぶった斬るよ」
腰にかけてあった刀を抜いて、奴の首元に当てる。なのに奴は顔色一つ変えず、いつものようにケタケタ笑っていた。
その態度にムカついたあたしはそのまま刀を振るうも片手でいとも簡単に阻止され、そのまま刀は宙を舞い、あたし達から少し離れた場所に落ちた。
取りに行くのも面倒だし、何もしないのも嫌だったあたしは神威を睨みつけてみる。
「危ないからやめてよ、俺あんたと殺り合うつもりなんてないんだからさ。ヤりあうのは大歓迎だけど?むしろ一発どう?」
「うるせえんだよ、変態野郎。誰があんたなんかとヤるかよ、殺すぞ」
本当気分が悪い。あたしの刀をそのまま放っておく事なんて出来ず、あたしは渋々刀を取りに重い腰を上げた。
「じゃあさ、副長さんとだとヤってもいいの?」
ぴくりと反応してしまったあたしに、神威はケタケタとまた笑う。
ねえ、どうなのと続ける奴にあたしは思いっきり回し蹴りをくらわそうとするも、すぐにまた片手で阻止される。
「面白いね、そんなにあの副長さんが好き?」
「…てめぇ、もう二度と土方さん名前だすな」
それだけ言い、落ちた刀を拾いに行く。刀を手に取り、気分が悪いからそのまま場所移動をしようとしたら奴はまた楽しそうにあたしの近くに寄ってくる。
「ねえ、あの副長さんのどこがいいの」
「…あんた、その話やめなせェ」
「あんなマヨラーより俺のがいい男だと思わない?」
「やめろって言うのが聞こえやせんかィ?」
「あんなのやめて俺にしちゃいなよ」
鞘に仕舞おうとしていた刀を、そのまま思いっきり神威に振りかざした。奴は攻撃を瞬時に交わし、あたしの背後にまわる。その瞬間、あたしも振り返り奴にむかってもう一度刀を振り下ろした。
カキン、と金属音が鳴り響く。どうやら神威は自分の傘であたしの攻撃を防いだらしい。
刀に力を入れれば、ギリギリと音が鳴った。
「やだなー、怒らないでよ」
「てめえなんぞがなァ、土方さんをあんなの呼ばわりしてんじゃねえよ!!!!!」
そんなに好き?と懲りずに聞いてくる神威に酷くイラついた。好きとかそんなんじゃねえんだよ。あの人は初めて命を掛けて護ろうと誓った人。
言葉では現せないくらい大切な人。そんな人を"好き"という単語一つで片付けられちゃ、こっちの腹の虫は収まらない。
「ヤキモチ妬くなー。ねえ総羅、副長さんを殺れば、あんた俺を見てくれる?」
「てめえ!!」
「冗談だヨ、副長さんを殺る前に総羅ちゃんと殺り合う事になっちゃうもんね。それはごめんだからさ」
瞬間、神威はぐい、と傘に力を込めた。あまりの力の強さに抑えきれなくてあたしの身体は軽く宙に浮いてから地面に叩きつけられた。
「でもさ、ちょっとくらい俺を見てくれてもいいんじゃないの?あんた俺なんか眼中にないって感じじゃん」
「うるせ、よ」
「俺だって多少傷つくんだからさ。それじゃあね、総羅ちゃん。また会おうネ」
ゆっくり立ち上がり、どんどん遠くなる神威の背中を睨みつけた。また会おうなんて冗談じゃない、と小さく毒づいてから口内に溜まった血を地面に吐き捨てた。
どうやら口を切ったみたいだ。奴は傷一つ作ってなかったのに。
圧倒的な力の差を感じ、悔しくて奥歯を噛み締めた。
大切な人を護りたいのに、
(自分の弱さに反吐が出た)
2011/02.07
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