「じゃあ、今日からあんたは俺のもんだから」
放心状態のあたしに、神威は追い打ちをかけるかのように言い放った。ちょっと待って。あたし今何された。答えてくれる奴なんているわけないのに、頭はこんな事ばかり考えた。
ああ、悔しい。今のあたしはきっと顔は真っ赤で茹蛸の様だ。まともに神威を見れる訳なんてなくて、あたしはそのまま逃げる様にその場を去った。
今でも新鮮に思い出せる、唇の感触に落ち着いてきた筈の心臓はまたうるさく鳴り出した。もう勘弁して。
「あたしはどうしたらいいんでィ…」
逃げて来た、家の近くの公園の滑り台に寄り掛かる。顔の熱は、冷たい風にあたっても消えない。
こんなにあたしを悩ませるのなんてあいつくらいだと思う。あの時、神威にキスされた時不思議と嫌ではなかった。相手が土方だったらきっと拒絶してた。でもあの時のあたしは拒絶なんてしなかった、むしろ受け止めてた気もした。なんで。分からない。
「はあー…」
ため息を吐きながらしゃがみ込む。久しぶりに頭を抱えた気もした。頭の中でちらつく神威の顔。もうあたしはどうしたらいいんだよ。
心のどこかで、あたしがあいつの事好きなんじゃないのって言う。それとは逆にまた心のどこかでそんなわけないじゃんと否定の言葉を述べるあたし。
「何してんの、お前」
しゃがみ込むあたしの上から降ってくる聞き覚えのある声。上を向けば先ほどあたし達が置いてきぼりにした奴の姿が。
罪悪感なんて、微塵も感じず助けを求めるかのように、奴の名前を呼んだ。
「土方ぁー」
「なんだよお前、また悩んでんのか?」
「もうあたし、頭パンクしそうでさァ」
縋るように土方のズボンを掴んでみる。すると不器用だけど優しいあいつの手があたしの頭を乱暴に撫でた。それが心地好くて、酷く安心して、どうしていいか分からなくて、不安定なあたしの目から涙が零れた。
「何泣いてんだよ」
「分からないんでィ、自分の気持ちが」
「…神威の野郎に告白されやした」
立て続けに言葉を述べるあたしに土方は驚きもせず、やっぱりか、なんて呟いた。
やっぱりかってなんだよ。こっちは真剣に悩んでるのに。
「で?その時総羅はどう思ったんだよ」
「どうって…」
「だから迷惑だったとか、嬉しかったとか色々あんだろ」
「迷惑、とか嫌とかは思いやせんでした」
土方は小さく笑うと、あたしと同じ目線になるようにしゃがみ込む。そしてあたしの目をまっすぐ見つめてはっきり言いきった。
「少なからずお前はあいつに好意があんだよ」
なんでそんな言い切れるんだかは分からないけど、土方がそう言うと自分は神威に少し好意があるんじゃないかと思えてきた。不思議と否定の言葉はでなくて、そっか、と頷く。
「そうだよな、キスされた時拒絶しなかったのはそういう事だったんだよな」
一人で勝手に納得してると肩を急に掴まれた。驚いて土方の顔を見れば、また土方も同じように驚いているようだった。
無意識なのか、あたしの肩を掴む手に力が入った。
「ちょ、いきなり何すんでィ!」
「お前、あいつにキスされたのか!?」
「え?そうですけど。」
無防備すぎんだよ!と怒る土方に訳が分からないあたし。無防備って…、悪いけど今のところ喧嘩で負けなしのあたしに言う言葉じゃないと思う。
だいたいなんで土方は怒っているのか分からなくて、少しだけ混乱する。
「なんであんたが怒ってるんでィ、意味分かりやせん」
「お前なぁ…!こっちは心配してるのによ」
「なんであたしの心配なんぞしてるんですかィ?あんたらしくねーや」
「お前俺がどんな気持ちで…!!あぁ、もうなんでもねえ!とりあえず少しくらい危機感もてよ!」
頭をがしがし掻いてから、そう言い捨てるとあたしを置いて土方は帰ってしまった。
なんて勝手な奴なんだ。あたしも人の事言えないのは分かってるけど思わずにはいられなかった。
───……
「そーうら!」
次の日、学校に行けば楽しそうにあたしの名前を呼ぶ声。
全く眠れなかったあたしなんて知りもせず、ニコニコと笑いながら名前を呼ぶのはあたしが全く眠れなかった原因の奴。
どんだけこいつはあたしを悩ませれば気が済むのだか。
「昨日は俺のせいで眠れなかったみたいだネ」
「ふざけんじゃねえぞお前」
「そんなに怒らないでヨ」
楽しそうに、またケラケラ笑う神威に手が出そうになるのを堪える。こっちは眠るのが唯一の幸せと言っても過言ではないくらいなのに、その時間を削った罪は重いぞ、と心の中で毒づくあたし。
「ねえ、総羅」
「今度はなんでィ」
「言っとくけど、俺本気だからネ。本気であんたがほしくて仕方ないんだよ、情けないけどさ」
ああああ!もうこれ以上やめてくれ。机に俯けになるあたしの顔はまた赤くなってるに違いない。ほら、その証拠にドクドク、と心臓がうるさく鳴ってる。
「…もうあんた本当に勘弁して下せェ」
「なに?どうしたの?」
「あんたのせいで、心臓が昨日からうるさいんでさァ…。どうにかしなせェ」
俯きながら、ボソボソと話すあたし。返事がなかなか返って来ないのを不思議に思い、少しだけ頭を上げて視線を神威に向けると、奴は急に昨日のあたしの様にしゃがみ込んだ。
「無意識にそういう事言うのやめてくれないかな」
「あんたこそ、あたしを悩ませるような事言うんじゃねーよ」
「もっと悩んで、俺しか考えられなくなればいいよ」
あたしはもう重症みたいで。視線が交わるだけで顔に集まる熱を止める事ができない。もう本当に可笑しい。
「もうやめて下せェ…」
そう言って神威から離れようと、立ち上がってみるもすぐにまた腕を掴まれて逃げられなくなる。そしてそのまま腕を引かれれば、引かれる力のほうにあたしの身体は傾いた。
本気で嫌がらないと、やめないよ?と抱き締めて離してくれない
(悔しいぐらいに神威の体温を心地好く感じてるあたしに、本気で拒絶なんて出来る訳ない)
2011/02.07
確かに恋だった様からお題お借りしました。
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