「なんで土方なの?」


あのあとあたし達は土方を置いてきぼりにして、神威に手を引かれるままついていった。最初の数メートルは無言のままで、正直気まずいなと思っていたあたし。そんななか、最初に口を開いたのは神威だった。
それはあまりにも率直な質問で、答えに戸惑う。土方と一緒に帰る事になったのは、深い意味があるわけじゃなく、ただ神威と帰るのが嫌だったから。でも今は現に神威と帰ってる訳だしあたしは一体何がしたいんだか分からない。


「あんた帰る時、居なかったじゃん」

「うん、居なかったネ」

「居ない奴を待つほどあたしはお人よしじゃないんでねィ」

「…だからって、なんで土方なの?」


誘われたから、と素直に答えればみるみるうちに神威の表情は硬くなっていった。そんなの気にせず、だいたいあたしが誰と帰ろうか自由じゃんと言えば、きつく睨まれる。むかつくからあたしも睨み返してみた。


「俺にこんなに生意気な態度をとるのはあんたくらいだヨ」

「神様にでもなったつもりですかィ?」

「なんでそんなに捻くれてるんだか」

「あんたに言われたかねーよ」


むかつく、と口を尖らせ言う神威はなんだか幼い子供のようで笑ってしまった。それに気づいた奴は目を見開いてから、あたしからすぐに視線をそらした。そんなにあたしの笑顔が悲惨だったのか、とちょっとムカつく。


「…そうゆう不意打ちずるいと思うヨ」

「悪かったねィ、見苦しい顔見せて」

「本当あんた鈍感だよね」

「はあ?」

「総羅が俺に笑顔を向けてくれて嬉しかったんだヨ、それだけ」


サラッとよくそんな恥ずかしい事が言えるなこいつ。ある意味感心する。そしてその言葉のせいで、顔にどんどん熱が集まっていくあたしも感心する。なんで照れてるんだよあたし。だんだん自分の気持ちが分からなくなる。
全部、神威のせいだ。ゆっくりあたしは下を向いた。


「総羅?」

「あんた、やっぱりむかつく」

「それは悲しいネ、これから大事な話をしようとしてるのに」


大事な話?不思議に思い聞き返すと、神威からは大事な話、とまた同じ言葉が返された。大事な話とは何か頭で必死に探すけど、答えは面白いくらい見つからない。
でもあたしの思考は嫌なほうへと向かう。今度は何だと考えるだけで頭が痛くなれた。


「あたしあんたに何かしやしたか?」

「うん」

「…何をしやした?気に障ったなら言って下せェ」


面倒事を避けつづけたあたしには分かる。こういうのはさっさと事情を聞いて謝っときゃ解決する。正直乗り気はしないけど仕方ない。相手は神威だ。


「じゃあ言わせてもらうけどさ、」


さっさと謝ってさっさとこの面倒事を終わらせよう。正直な気持ちをいうとこの場から今すぐにでも逃げ出したい。でも逃げた所で無駄な事が分かってるから辛い。


「俺、あんたが好きなんだよね」

「すいやせ…、え?」


予想外な事で、言葉に詰まってしまった。肩からずり落ちる鞄を気にする暇なんてない。とにかくなんで、どうなってんだ、と疑問の言葉が頭いっぱいに広がるばかりだった。


「鞄、落ちそうだヨ?」

「なんで…」

「あんたが鈍感なだけなんじゃない?」


そう言ってケラケラ笑う神威。あたしが鈍感?違う、今はそんな事考えてるんじゃない。とりあえずこいつの返事をしなくてはならない。でも今すぐなんて無理だ。ただでさえ自分が神威にどんな気持ちなのかも分からないのに。


「だから付き合ってよ、」

「なに言って…、」


ゆっくりあたしに近づいてくる奴に、逃げる事なんてできなかった。この状況を頭では理解できてるはずなのに、それに心がついていけなくて。





(急速に冷えていく頭とは逆に心臓はうるさくて仕方なかった)




2011/02.06






 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -