「ねえ、総羅ー」

「なんすか」

「今日一緒に帰ろうヨ、決まりだから」


こんな約束を一方的に取り付けられたのが2時間くらい前。今は掃除の時間。この時間さえ終われば、地獄が待ってると思うと嫌になってため息が零れる。
でも先に帰ろうなんて思わなかった。きっとあの時言われたあの言葉が頭から離れないからだ。
他の男を見ないでよ、神威があんなに弱々しく呟くもんだから。思い出すと胸がぎゅってなる。よくわかんない。


「おい総羅」

「うるせーよ、土方コノヤロー」

「さっきからお前、何なやんでんだよ」

「…別にー」


土方とはよく何かが一緒になる。委員会も同じだし、帰り道も同じだから時間さえ合えば一緒に帰ったりしてる。それで今は掃除場所が同じ。もちろん真面目に掃除なんてする訳がなく、手に持った箒は何の約にも立たないでいる。


「てめえさっきから、あーとかうーとかうるせえんだよ」

「うるせえな、さっさと掃除しなせェ」

「お前に言われたかねーよ!!」


土方の言ってる事は正しくて、言い返す言葉が見当たらなく、でも何も言わないのはあたしの癪に障るから、死ねと一言呟いた。


「何かあったなら言えよ」

「…神威に一緒に帰る約束一方的に取り付けられた」


あまりにも土方が優しい声を出すもんだから、ポロリと口を尖らせ言ってしまった。
その瞬間ガシャン、と土方の手から落ちた箒。あたしはそれを黙って見つめる。


「…何してるのさ」

「いや…、つーかお前はその約束をどうしたい訳?」

「どうって…、できる事なら放棄したいです…。」

「なら無視して先に帰ればいいじゃねえか」

「それが出来たらこんなに悩みやせん」


箒を拾いながら、なんでだよと問う土方。なんでって、分からない。ただあの声を思い出すと胸が締め付けられるから。もうあんなに悲しそうな声を聞きたくないから。理由なんて考えればいくらでも出てきた。


「総羅は、あいつが好きなのか?」

「……分かりやせん」


この間までだったら嫌い、と即答出来た筈なのに。自分の気持ちが分からなくなってる。でも嫌いではない、と思う。
ああ、頭がごちゃごちゃしてきた。


「なら、今日は俺と帰るか?」

「なんでィいきなり」

「こんなもやもやしたまま、あいつと帰るだなんてお前も気がのらねえだろ」

「…おう、それもそうですねィ!そうしやす!」


そうか、と笑う土方にあたしもつられて笑った。心のもやもやはいつまでたっても消えやしなかった。


────……


「おい総羅、帰るぞ」


チャイムが鳴ったと同時に、土方はあたしの所に来た。隣の席の奴は掃除が終わっても帰って来なかった。
なんでお前から約束取り付けたのに来ないんだよってイライラする自分。本当わけわかんない。


「何、ぼーっとしてんだよほら行くぞ」

「うわっ」


腕を掴まれ強引に立たされた。そしてそのまま下駄箱まで連れて行かれる。神威の奴も強引だけど土方も負けてないと思った。


「そんな引っ張らなくてもあたしはどこにも行きやせんよ」

「あぁ…、すまん」


そう言って土方はあたしから手を離した。そのおかげでずっと気になってた、肩からずり落ちた鞄を元の位置に戻せたあたし。何をこいつは必死になってるんだか知らないけど、土方には余裕がないようだった。


「今日のあんたちょっとおかしい気がしやす」

「そんな事ねえよ」

「なんか必死になってる気が…」

「そんな事ねえよ」

「あんたさっきからそればっかじゃないですかィ」

「そんな事ねえよ」


こいつ会話する気あんのか、と思ったと同時にやっぱり土方に余裕がないのは分かった。もうこれ以上何かを話しても続かないのは分かったから黙る事にした。
下駄箱から自分の靴を取り出し、乱暴に地面に置く。上履きを脱いで、下駄箱に無造作に突っ込んだ時だった。


「ねえ、総羅」


びくりと、思わず肩を竦めた。聞き覚えのある声。それに1番に反応して振り返ったのはあたしじゃなくて土方のほうだった。


「お前…、」

「またあんた?それより総羅、可笑しいよね。俺と何か約束してたよね」

「…神威」


周りはやっぱりどす黒いオーラに包まれていた。高鳴る心臓を抑える。神威はどうやら走って来たのか、軽く息切れをしていた。
なんでそこまでして、なんて呑気に思ってたら腕をきつく掴まれ、呆気にとられるあたし。




(そしてそのまま奴は足を進める。奴から伝わる体温がやけに暖かくて、その手を振り払う事はできなかった。)




2011/02.06






 
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