隣を見るといつでもため息が零れる。こんな事だったら土方の隣だったほうがずっと良かった。今更こんな事思っても、決まった事だから無駄なんだろうけど思わずにはいられなかった。


「ねえ、ねえってば」

「今度はなんすか」

「俺、今すっごい幸せ」

「そりゃ良かったですねィ、あたしは気分が悪くて仕方ない」


なんでよ、と不満げに呟く神威にあんたのせいだよ、なんて言えなかった。理由は簡単。厄介な事になるから。
またいつものようにどす黒いオーラを出して、俺の何が悪いの?って聞いてくるに違いない。考えるだけで嫌になる。


「もうあたしは眠いんでさァ」

「なんでそんなに不満げなの?土方の隣のが良かった?」


おい、こいつ今あたしの話聞いてたか。眠いって言ってるのにあたしの事はお構いなしか。まだ答えないでいるあたしに、ねえどうなのって追い撃ちをかけてくる。


「…別に、でもあんたはうるさいんで土方の隣のほうが良かったかもしれやせん」

「総羅は俺の事嫌いなの?」

「うるさいのは嫌いでさァ」

「……」


さっきまで、ベラベラ話していた神威が急に口を閉ざすもんだから少し気になった。でもこれはこれで都合が良いや。なんて思ってみたけど、隣と気まずいのは正直嫌だ。渋々奴の顔色を伺って見たら、正直驚いた。
なんであんた、


「そんなに悲しそうな顔してる訳?」

「…そりゃ、俺に感情がない訳じゃないんだからさ」


訳が分からない。結局何が言いたいんだか分からなくて頭がこんがらがる。
でもわかった事は神威はどうやら落ち込んでるみたいだ。理由は分からない。ここで普通なら慰めるという行為を行うんだろうけど、正直めんどくさい。こういう感情に素直なあたしはほって置く事にした。


「総羅は結構冷たいんだネ」

「…結局あたしにどうしてほしいのさ」

「なんで分からないの?」

「あんたに興味がないから」


きっぱりそう言ってやれば、はあーと深くため息を吐いてから神威は机に俯せになった。
あたしにこいつは何を求めてるんだかさっぱり分からないし、ため息を吐かれたのは結構ムカつく。


「もう面倒なんであんたの事無視していいですかィ?」

「……ダメ」

「…あんたはあたしが嫌いなんですかィ?」

「なんでそうなるの?どう考えたら俺があんたを嫌いって事になるの?」


まっすぐあたしを見て、きっぱりそう言い放つもんだから、自分が悪い事を言った気になる。でも別にあたしは、神威を怒らせるような事は言ってない。
もうこれほど思考が読めない奴はいないと思う。


「嫌いだから、そうやってあたしに絡んでくるんじゃないんですかィ?」

「なんでよ、嫌いだったら自分から絡みにいかないよ、俺は、ネ」

「まあ嫌われてないんだったらいいや」


悪意があって絡んでくるんだったら、一発ぶん殴ってやろうと思ったんだけど。悪意がないならいいや、って思えたあたしはなんて心が広いんだろう。


「悔しい」

「なんでィ、いきなり」

「俺、あんたの言葉に喜怒哀楽しすぎて悔しい」

「はあ?」

「そうやって、無意識なのがもっとムカつく」


なんで、あたしが神威にムカつかれなきゃなんないのさ。ムッとした表情の神威なんかもうほって置く。だって怒る理由が分からないし、勝手にムカつかれるなんてあたしもいい気分じゃない。
ふ、と土方の席を見てみた。やっぱりあいつの隣の席が良かった。別に土方の隣が良かったって訳じゃなくて、窓際というのが良かった。太陽に当たって、ポカポカして眠りやすいっていうのもあるし、何より隣が神威じゃない。きっと平凡だった。


「…ねえ、」

「今度は何?」

「あんた今何を見てた?」

「別にあんたに関係ねーやィ」

「土方、でしょ」


土方を見てたんじゃなくて、土方の隣の席を見てたのに。
神威の声は冷たくて、なんだか怖かった。違う、って否定してやろうと口を開こうとしたら、急に視界を塞がれた。





(その時の声があまりにも、弱々しくて何も言い返せなかった。)




2011/02.06






 
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