「今日は席替えをしまーす!でも俺なんにも用意してないから後は頼んだ!」
銀八の無駄にテンションの高い一声でそれははじまった。授業が面倒だからきっとあいつは席替えとか適当な事を言ったに違いない。現に奴はジャンプを読みはじめてる。皆は適当に好きな席に移動を始めた。
銀八の言葉に素直に従う奴らは案外素直だな、なんて思いながらもあたしは窓際に机を動かした。
「またお前かよ」
窓際で、もう寝る支度を始めたあたしに聞き覚えがある声。アイマスクを外し、めんどくさそうに見てみれば土方の姿。こいつとは何かの縁か、ずっと席は隣だった。
「またお前かよって、あんたがあたしの隣に来たんじゃねえか」
「俺はこの席がいいんだよ!お前どっかいけ」
「はあ?あたしだってこの席がいいから此処にいんでさァ!だいたいあんたの為に席を移動するとかありえやせん」
きっぱりそう言い捨てて、あたしはまたアイマスクを下ろした。隣でぶつぶつ文句を言いながらも移動しようとしない土方に、こいつはあたしに好意があるんじゃねえかとも思った。
嫌なら何で移動しないんだか。ぽつりとそう言ってみたら、どうやら聞こえてたのかうるせえと一言返ってきた。
まあ別にいいけど、なんて上から目線で言ってやれば、何様だよとまた返事が返ってきた。
「あんたさー、ちょっとうるさいから黙ってくれやせん?イライラする」
「お前から話かけて来たんだろうが!」
「返事すんなよ」
「はあ?お前なぁ…!」
また何かを言い返そうとする土方に面倒になったあたしは、手で奴の口を抑えつけた。予想外の事だったのか、目を見開く土方はちょっと面白かった。
「な、何すんだてめぇ!」
「だってうるさいんですもん」
「だからって…!」
「あんた、案外面白い反応しやすね」
面白くて笑ってしまった。それが気に入らなかったのか頭をがしがし掻いて、ムスッとした表情になってしまった。別に土方の機嫌をとろうとなんて微塵も思わなかったあたしはそのまま、思う存分笑ってから視線を窓にずらす。特に意味なんてない。
「ねえ、」
「……」
「ねえってば、」
聞いてるの?、とあたしの腕を掴む手に驚く。あたしに話し掛けてたなんて思わなくて。視線を窓から話し掛けてくるあいつに向けると気持ち悪いくらいニコニコしていた。
「何ですかィ?」
「無視するなんて酷いなー」
周りから溢れ出るどす黒いオーラに言葉が詰まった。こいつはいつもこうだ。変にあたしに突っ掛かってきては、反論はさせないように威圧感を出して。
簡単にいえばあたしはこいつが嫌いだ。苦手、とかそんなんじゃなくて嫌い。1番関わりたくない人といっても過言ではないくらい。
「総羅も気づかなかったんだろ」
無視をそのまま決め込むか、と思った時土方が助け舟を出してくれた。何でこいつが?なんて思ったけど、とりあえずそれに頷いてみた。でも嘘はついてないし。
「何、あんた?」
「何って別に」
「あんた総羅が好きなの?」
「はあ?」
何でそうなんだよ、と言う土方にあたしも同意。本当に何でそうなるんだか。
「じゃあ、ちょっと席移動してヨ」
「お前意味分かんねえ」
「あんたの席、俺に譲ってって言ってんの」
「なんでてめぇの為に俺が移動しなきゃなんねえんだよ」
土方が言ってる事は正しい。なんで神威はそんなに土方の席にこだわるんだか。
もう正直関わりたくないあたしは、上げたアイマスクを下ろし眠る体制になった。なんでたかが席替えでこんなに疲れるんだか。
「じゃあいいや、ねえ総羅」
急に名前を呼ばれて今度はなんだと頭を上げれば、また腕を掴まれた。そしてそのまま立ち上がらされる。
ちょっと待って、アイマスク外してないからと言っても無視されて。不安定でよろよろしながら、手を引かれたまま歩いた。
あんたの席はここでしょ?と手を引かれ隣に座らせられる
(本気でふざけんなって思ったのは後にも先にもこの時だけだと思う。)
2011/02.05
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