「おい総羅!」

「なんすか土方さん」


そんな表情をするのはきっとあの子が関係している事。心の中でため息をついてからあたしは聞きたくもない、土方の笑顔の訳を聞く。


「連絡先を交換してもらった」

「やっとですかィ、でもまた一歩進展ですねィ」


平然を保ってるふりをしても、土方の声は誰が聞いても嬉しそうだ。連絡先をあげただけで、土方をこんなに幸せそうな表情にさせるなんて。きっとあの子から連絡先を貰った時、不器用だから嬉しくても素直に喜べなかったんだろうけど。
土方を笑顔にさせてる原因はあたしじゃない。でも笑顔を向けてる先にはあたしが居る。
正直複雑で、胸が張り裂けそうだ。目の前に居る奴はそんなあたしの気持ちに気付いてはいない。この場で、好きだって、話を聞くのが辛い、なんて言えたらどんなにいいか。
でもそんな事を言ったら、あたしと土方の唯一の繋がりを切ってしまう事になる。結局弱いあたしには、このままの関係をキープする事しか出来なかった。


「まあ相手も連絡先を渡すっていうのは少なからず、あんたに好意があるって事でさァ」

「まじでか」

「もう一押しでィ!」


自分で言ってて嫌になった。もう土方の隣に立てなくなる。もう土方とこうやって話すのも難しくなる。

もう土方を好きでいれなくなる。

どれもあたしにはつらすぎた。着々と近づくその時の事を考えるだけで、涙が溢れそうになる。好きを抑えるって思ってるよりきついんだね。
好きでいれば、きっと土方も。なんて馬鹿げた考えがまだ頭から離れないでいる。まだもしかしたらって期待してるあたしがいる。もうここまでくると駄目かもね。


「まあ後は自分でなんとかするんですねィ」

「お前またサボりかよ」

「まあ頑張りなせェ」


"頑張れ"なんて嘘ばっか。本当は頑張らなくていい。あんたの恋なんて実らないで、なんて最低な事考えてる。そのまま失恋しちゃえって。好きな奴の幸せを願えるほどあたしは綺麗な心はしちゃいない。
だいたいあんたはなんであたしがこんなにサボるか、なんて考えていないでしょう?どうせ面倒だからとか思ってるでしょう?
違うよ。本当はあんたの話す声を騒がしい教室から自然と探してしまって、銀八の声なんて頭に入って来ないんだよ。
あんたを自然と目で追ってしまって、何をやってるかなんてどうでも良くなってしまうんだよ。
あたしの全てがあんたを求めてしまうんだよ。どんどん好きになっちゃうんだよ。
歯止めが効かなくなる前に、あんたと距離を置かなきゃいけない。辛い想いはもう懲り懲り。あの子が好きな土方なんて嫌い。でも好き。矛盾してるのは分かってる。

流れる涙はそのままにして、あたしは静かに屋上に向かった。




(結局逃げる事しか出来ないんだ。)



2011/02.05






 
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