「総悟、なんかドキドキしやすねィ」
「おう、修学旅行みたいでさァ」
「てめぇら遊びに来てんじゃねーんだからな!!」
仕事で俺達は爆破テロが起こると言われている場所に来た。そして怪しい奴がいないか、と通る奴ら一人一人に目を光らせているのに、なんだこいつらは。
緊張感のかけらもない。どうやら事件を遊びか何かと勘違いしてるみてェだ。
久しぶりに片割れになった双子と再開出来て嬉しいのは分からなくもないが、仕事とプライベートのスイッチは切り替えてもらいたい。
こいつらに仕事を語ったって無駄な事は俺が1番理解してる。零れるのはため息だけだった。
「ねぇ、総悟」
「ああ、分かってらァ。もう面倒だから片っ端から撃っていきやしょう」
「そっちのが手っ取り早いもんね」
「何て事しようとしてんだァァ!!」
何処から取出したのかは知らねェが、奴らはバズーカを此処を通る奴ら片っ端に撃とうとしていた。
慌てて奴らのバズーカを奪い取り、思いっきり頭を殴る。
「いったいなぁー。3丁目のみさきちゃんにフラれたからって渇かしないで下せェよ」
「みさきちゃんって誰だよコラ」
「うわーまたフラれたのかよ、あんた意外とそういうのに関しては初ですもんねィ」
「だからフラれてねェつってんだろ!!本っ当黙れよまじで。」
「あ、」
いきなり間抜けな声を上げる総羅。彼女は何処かを指していて、そちらに視線を向ければいかにも、な奴らが3人。
もうそいつらの8割は怪しいで出来てる様な奴。何も言わなくても二人には伝わった様で、そいつら目掛けて駆け出した。
「こんにちはー、此処らでテロ予告があったんですけど何か知りやせん?」
総悟が奴らにそう言うな否や、奴らは素早く刀を抜く。それと同時に俺や総悟も刀を抜いた。
一斉に斬りかかって行く中、一人だけ俺について来る少女。
「ねぇ、土方さん」
「あ!?つーか総羅テメッ、刀どうした!?」
「置いてきちゃった」
「何でだァァァ!お前本当何しに来たんだよ!!」
「だからあんたの、それ。鞘貸してよ」
「鞘ァ?」
よく分からないまま、片手で腰にかかってる鞘を総羅に投げつける。うまくそれをキャッチして、彼女は後ろから襲い掛かってくるテロリストの攻撃を瞬時に交わし、的確に鞘で急所を打つ。
それは本当に一瞬の事だった。
剣筋、太刀筋、迷いのない剣、それの全てが綺麗で。思わず見惚れるくらいだ。
初めて見る彼女の剣裁きは、俺の脳裏に深く焼き付いた。
「土方!!」
急に総悟に名前を呼ばれ、ハッとした。
俺は総羅に見惚れているあまりに目の前の敵に隙を見せたようだった。それに気づいた時はもう遅く、目の前の奴はニヤリと口角を上げ刀を振り上げる。
しまった、と思った時と同時に横から思いっきり誰かに蹴り上げられた。いきなりの事で受け身を上手く取れず、勢いよく転倒する俺。何があったのかと、まだ頭はついていけない。
目の前には長い髪を一つに括った少女が背を低くし、奴の刀の数ミリしたに居た。刀を交わしきれなかった少女の綺麗な髪はパラパラと下に舞い落ちる。
一瞬時が止まった様に呆気にとられたが、敵がどさりと倒れた事でまた俺の思考は動き出した。
「あんた、何やってんですかィ」
そう呆れた様な声を出し振り返った少女の頬には傷があり、そこから赤い滴が流れていた。
ゆっくり立ち上がり、それに触れてみれば少女は傷が少し痛むのか顔を歪ませる。
「総、」
「土方ァァァ!!!」
大きな怒声と共に横からの強い衝撃。せっかく立ち上がった俺はまた横に飛ばされて地面と衝突する。
遠くからは心配する声とそれに答える高い声。奴らはぶっ転んだ俺に興味など皆無の様だ。
多少苛立ちを覚えながらも、立ち上がる。
口内で鉄の味を感じ、それをその場に吐き捨てた頃には少女達の視線は俺へと向けられていた。
「何油断してるんですか。本当副長失格ですねィ」
「お前まじふざけんなよ、総羅に怪我させやがって」
一つは呆れた様な視線。もう一つはとんでもない殺意を感じる視線。
どちらにせよ、結局俺を不快に思っての視線だ。
今回は敵に隙を見せた俺が悪い訳だから、何も言葉は出なかった。
「こいつら屯所に連れてった後、甘味奢りなせェ」
「は?」
「総悟の分もだかんな、よし帰ろっか」
余りにもその場に不釣り合いな言葉を残して双子共は、さっさと帰りやがった。
きっとこれは甘味を奢ったら俺のミスはチャラにしてやる、ということなんだろう。
不器用な彼女なりの優しさが可笑しくて俺は小さく笑った。
彼女の初仕事は上司のミスで、
(そのあと屯所で俺のミスを知らない奴は居なかった)
2011/0321
←