あのあとものすごく質問攻めにあった後、今さっき奴らは満足したのか解放された。
質問の全てが総羅関係だったが。例えば総羅に好きな奴はいんのか?とか総羅に彼氏はいんのか?とか。
まあ総羅は全てにNOと答えたが。とにかくあの天パ、総羅を見る目が危ない。あの目は少なくとも総羅に好意を抱いている。あぶねえ、もうあいつには近寄らせないようにしよう。
「土方さん!」
「うおっ!な、なんだよ!」
「なんだよとはこっちの台詞でィ!あんたあたしが何言っても上の空で何考えてんですか」
「悪ィ、ちょっとな」
むっ、としてこちらを見る少女。お前を心配してた、なんて言える訳ねぇ。
言ったところで、返ってくるのは暴言だしな。俺は深くため息をついた。
「あー、あたし凄く疲れやした」
「急に何言ってんだお前」
「うるせー、さっさとあそこに連れてけ!もちろん金はお前が払えよ!」
そう言って総羅が指を差した先にあったのは、銭湯。
疲れた?そんなはずない。なぜならば、総羅はだんだん疲れて弱っていく俺を楽しそうに見ていた側の人間だ。むしろ疲れたのは俺の方。
なんでだ?…まさか、
「…お前俺に気を使ってんのか?」
「なっ!ち、違いまさァ!誰がてめぇなんかに気を使うか!ばーか!死ね!」
そうです、とでも言うように慌てる総羅。案外良いとこあんだな。そんな事を思ってたら、手首を捕まれ銭湯に引きずり込まれる俺。
やっぱり総羅の力は強かった。
「痛ェよ!」
「てめぇが歩かねェからだろィ!もうー、この馬鹿息子!」
「お母さんんん!?」
まあ、これはあいつなりの優しさなんだろう。手首痛いけど。素直に受け取るのも悪くないかもしれない。手首痛いけど。
小さく笑ってから、男風呂の方に行こうとしたら、控えめに着物の端を捕まれた。
「…なんだよ総羅」
「何度も言いやすが、お、お前の為じゃねぇかんな!あたしが疲れたからであってお前なんかに気を使った訳じゃ…」
「はいはい、分かってらァ」
ぐしゃぐしゃと総羅の頭を撫でてから、俺は男風呂に向かった。
本当にあいつは素直じゃねェ。
「…触んじゃねーよ、馬鹿土方、」
────……
「てめぇ、土方コノヤロー!総羅と二人でお出かけなんていい度胸じゃないですかィ」
風呂入った後、俺は総羅に適当に江戸を案内し、真選組に戻った。戻った時刻はもう夕方過ぎぐらい。この時間に帰って来るとやっぱり奴には俺が総羅と江戸を巡回してたのはバレてたみたいで。
玄関で仁王立ちしてた奴の周りは、どす黒いオーラに包まれていた。
「俺ですら、まだ総羅と出かけてねェのに!お前のマヨネーズ臭い手で総羅に触ったと思うと鳥肌もんでさァ!」
「総悟ただいまー!」
総悟の突き刺さるような視線が俺から、少し後ろにいた総羅に向けられた。
当の本人はそんなの知らず、ブーツを乱暴に脱ぎ捨て、輝くような笑顔で総悟に飛び付いた。
総悟の周りにあったどす黒いオーラはいつの間にか消えていて、先ほどまでの態度が嘘の様に笑顔を見せていた。
「総悟聞いてくれィ!あたし今日万事屋の奴らに会いやした!」
「あんなのに会うなんて総羅は運がないねィ!ムカつくチャイナ娘に何かされやせんでした?」
「あぁ、口喧嘩にはなりやした!そんな事よりあたし今日だいぶ江戸を知ったんで、明日にでもまた行きやしょうや!総悟のオススメの甘味処教えなせェ」
「いいですぜ、行きやしょう」
周りから見たらものすごく微笑ましい状況だ。
だけどな、
「お前ら明日仕事だろうがァァァ!!!」
そう、明日こいつらはがっつり仕事だ。総羅は初仕事ってやつだ。
それなのになんだこの会話は。もろ明日はサボりますつってるようなもんだろ。
またため息が出そうになったところ、近藤さんが丁度良く現れた。
「総羅、居間に来い!皆で歓迎会をするぞ!」
「歓迎会…?」
「そうですぜ、俺は今日その用意を手伝ってやした!土方と一緒に居たのは気に入らねェが、皆お前が来るの楽しみにしてるんでさァ」
感激してるのか、これでもかってぐらいの笑顔をする総羅。それは俺に向けられたのではなく、もちろん総悟にだが。
総悟に手を引かれ、居間に向かう総羅は馬鹿みたいに綺麗だった。
ぼーっと見とれていたら、いきなり総羅がこっちに振り返り、心臓が止まるかと思った。
すると、総悟に手を離されこっちに向かって来る。
「土方さんー!あんたは来ないのですかィ」
「え?」
「ほらさっさと来なせェ!」
ぎゅっと手を捕まれ、心臓が高鳴る。情けないくらいにドキドキと脈打つ心臓を潰してしまいたいと思った。
少しだけ赤く染まった頬を気づかれたくなくて、隠すように俺は下を向いた。
「土方さん?なんか赤くなってやせん?」
「寒いからだ」
「?そうですかィ」
繋いだ手から総羅のぬくもりが良く伝わって、頭が真っ白になった。今日の俺はどうかしてる。本当らしくねェ。
恋に落ちるまで、3、2、1
(違う、そんなんじゃない。きっと気のせいだ。)
2011/01.23
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