高尾と緑間
なんで俺はバスケなんかはじめたんだろう。キセキの世代だなんて呼ばれ大きな荷物背負わされて。中学の時は皆が皆恐ろしいほどバスケが上手く、それが当たり前になっていた。高校に入るとそれが当たり前ではなかった事に初めて気づいた。
確かに俺はバスケの強豪高に行った。皆バスケが上手い奴ばかりだ。だが、俺達の居たあの中学とは全く違う。俺は、異端になっていた。
普通じゃない、異常だ。何度も言われた。言われ馴れてる筈だった。なのに、俺は無意識のうちにその言葉に過剰反応するようになっていた。町でその言葉を聞けば自分の事を話しているのではないか、と耳をそばだて。本当笑ってしまう。
どんなに頑張ったって、一生懸命になったって、虚しくなるだけだ。誰もここまで追いついてくる者はいないのだから。
どうせ緑間には勝てないし、本気でやるだけ無駄。
今日、試合中に聞いたあの言葉が頭から離れない。虚無感に襲われた。一生懸命になるのが馬鹿馬鹿しく思えた。シュートをうつのをやめよう、初めてそんな事を考えた。
数分前にリアカーとってくるから待ってて、と消えた高尾。あいつも俺に追いついてくる事はないのだろうか。あいつも俺と本気で勝負したところで無駄だと笑って諦めるのだろうか。もう、どうでもいい。
「あれ、真ちゃん?泣いてんの?」
「は?」
戻ってくるなり、何を訳のわからない事を、と目を拭ってみても泣いたような跡はない。
あれー?泣いてるように見えたんだけどなーなどと言う高尾に否定の言葉は出なかった。かわりに泣いていたのかもな、と曖昧な言葉を返した。
「なんだかよくわかんねーけど、お前が泣きたいくらい悲しいのなら肩ぐらいかすから」
「無理すんなよ、なんか今のお前壊れちまいそう」
余計なお世話なのだよ、と言い放ったあとに、鼻を啜ってしまった音はあいつに聞こえていたのだろうか。
こっちに振り返る事なく俺の先を歩いた高尾はきっと全てお見通しなんだろうけど。
2012/08.07
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