高尾と緑間




最初の印象はいつもへんなラッキーアイテム持ってるし、語尾がなのだよだし、とにかく変な奴だって思ってた。
それに正直あいつの事は全然好きではなく、むしろ嫌いだった。
なんであんなのがすげえシュート打てんだろうって悔しくて。なんであいつばっかりチヤホヤされて、俺だって一年で東の王者と呼ばれる、秀徳のレギュラーになったのにって。嫉妬だってわかってたけど、カッコ悪いってわかってたけど、どうも好きになれなかった。
でも実際は誰よりも努力家で、誰よりも、負けず嫌いで、誰よりも一生懸命で。そんな姿みてたらどうも嫌いになれなくて、少しずつあいつが気になっていき、気づいたら好きになってた。
だけど俺たちは同じ男同士、好きになるなんておかしいことだし、好きだって言ったら相手を困らせてしまうことぐらい分かる。分かってた。
だから俺はいつだって真ちゃんの"相棒"でいたし、これからもそのつもりの筈だった。

明日、真ちゃんは結婚する。大学で知り合った女の人と、だ。俺も何度か会って話した事があるが、綺麗で、本当に性格も良い人で、真ちゃんにぴったりだと思った。
これでやっと俺の恋は終わることができるんだ。否、できるはずだった。
なのに今はどうだ。本当は笑顔で幸せになれよって、言うはずだったのに、頭の中ではもうとっくに真ちゃんの想いは消えてる筈なのに。
諦めの悪い俺はまだ真ちゃんを好きでいたいらしく、笑顔どころか馬鹿みたいに涙が止まらない。困ったように笑う真ちゃんを見てやっぱり俺は最後の最後までこの愛しい人を困らせている事に気づいて、余計に情けなくなって更に涙が止まらなくなる。


「高尾、泣くのはやめるのだよ」

「ご、めんな。ごめん」

「まったく、困ったやつなのだよ」



俺の頭を撫でるその手の温もりが、俺にだけ向けてくれるその笑顔が、全部全部愛しくて。好きで、大好きで。
せっかく今まで蓋をしていたのに、無理矢理押し込めていたのに、真ちゃんへの想いが蓋を押し退けて溢れてきて、


「おれね、真ちゃんのことが好きなの」

「本当はね、死ぬまで、言わない筈だったんだけどね、言っちゃった」

「ごめんね、今の全部わすれて」



俺の頭を撫でていた手がゆっくり離れていく。それなのに、そのぬくもりは消えることはなかった。
忘れて、なんて言ったけどそんなの忘れられる訳がない。忘れて、なんて言ったけど、この気持ちをなかったことにしたくない。
結局自分の事しか考えられない可哀想な俺の頭はどうにか自分だけが傷つかない道を必死に探していた。



「お前はいつも遅いのだよ」

「し、ちゃん?それどういう、」


「俺もお前が好きだった」



最後まで優しいその人は、こんな情けなくて自分勝手な俺に笑顔を向けてくれ、いまだに溢れる涙を親指でそっと拭った。
もう少し、はやく気持ちを伝えていればもしかしたら、真ちゃんは今ごろ俺の隣で笑っていたのかもしれない。そう思うと、胸の奥が苦しくなって上手く息が出来なくなる。
それでも俺は涙でぐしゃぐしゃの顔で無理矢理笑顔をつくった。



「幸せになってね」


そんな事、全然思ってないのに、はやく俺のところに戻ってきて、なんて思ってるのに。
どこまでも最低な俺は真ちゃんと幸せになれるよう、願いながら口づけをした。





2012/02.04

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