興奮(宮→緑)





俺は今、後輩相手に興奮している。
これは何かの間違いだと言い聞かせるも、そいつを見て呼吸が少しばかり荒くなってしまう事実に言い訳など無駄なことはよく分かる。だがそれを受け入れてしまうことはできる筈がなかった。
健全な男子高生なら少し興奮するくらい何の問題もないが、何故俺が頑なにそれを否定してるのか。そんなの簡単だ。俺を興奮させた相手が同性だからだ。つまり男。これは否定したくもなるだろう。
俺はホモではない。断じてない。むしろ可愛い女の子のほうが何百倍も好きな筈だった。
なのに目の前の相手に興奮してしまっている。頭の片隅で犯してえと思ってしまっている。お願いだから誰か俺の後頭部を躊躇なく殴ってくれ。この出来事だけ綺麗に忘れさせてしまう器用な奴限定で。



「なんですか、ジロジロと」



更に言えば俺はこの後輩が苦手な筈なのだ。言っている意味がわからないと思うが俺もわからない。だから余計に混乱している。
本当に百歩譲って俺に懐いてる可愛い後輩なら仕方ないとしよう。だがこいつはそんなのとは真逆の存在だ。我が儘で更に生意気でと本当に扱いづらい後輩なのだ。現に今も俺の視線に気付いて鬱陶しそうに俺を見ている。やめろ、そんな目で見んじゃねえ。



「…気持ち悪いのだよ」

「っるせー!気持ち悪くて悪かったな!!死ね!!」



まあこいつが気持ち悪いと言うのはなんにも間違っちゃいない。正論すぎるくらいだ。
それは認める。認めるから、お願いだから首を少しだけ傾げるのはやめてください。そんなあざといポーズは俺を煽るだけなのでやめてください。
ただでさえ俺はお前の練習後の紅潮する頬や、滴る汗や、口端から零れたスポーツドリンクを指先で拭った姿とか、そんなありふれた日常風景に興奮要素を見出してしまっているというのに勘弁してください。



「先輩何か変ですよ、具合悪いんですか?」



具合悪いどころか元気だわ。主に下半身がね!!声を大にしてそう訴えたかったが、こんなこと言えば俺がセクハラで訴えられるのは目に見えている。
こっちに来る緑間の歩幅に合わせ、俺も一歩二歩と後ずさる。怪訝そうに俺を見つめるこいつに理由を話す訳にはいかなかった。当然だろう、興奮してるから来ないでなんて言ったら明日から俺のあだ名は間違いなくホモになる。それだけは避けたい。



「俺、何かしましたか?」

「あ、え?べべ、別になんにもしてねぇ」

「何で逃げるんですか?」

「逃げてねえよ、てかくんな」

「何でですか?」

「何で何でうっせーよ!!世の中知らないほうがいいこともあんだよ!!」



つーか何で誰も俺を助けてくんねえんだよ。いくら遅くまで自主練していたからといって、緑間と二人体育館に残っている訳ではない。緑間がいるということは高尾も居たはず。つまり高尾にこの最悪な状況をどうにかしてもらいたいのだが。緑間から視線を外し体育館全体に向けるもそいつの影すら見当たらない。なんでやねん。俺がつい関西弁になってしまうのも仕方ないだろう。
そうこうしてるうちに、踵が何かに当たる。そのあと背中が当たり、間違いなく俺は壁に追いやられた。俺に逃げ場はもうない。下半身の異常がバレるまでそう時間はかからないだろう。
緑間の手がこちらに伸びてきた。ついに全てがばれたのか。きっとビンタでもするつもりなのだろう。いいさ、もう気が済むまで好きにしてくれ。ぎゅっと瞼を閉じた時、



「先輩、睫毛ついてますよ」



そう言って俺の頬を撫でた指。
てゆかおい待て、なんだこれ。バレてないのか?バレてないんだよな。それよりこいつはたかが睫毛一本で俺を、この俺を壁まで追いやり、更には絶望で染め上げたというのか?緑間の分際で?緑間の分際で?
色々文句を言いたかったもそれらを全て飲み込み、緑間を思いっきり押し退けた。



「今度から睫毛がついてた時はわざわざこんなことしなくてもいいから口で言ってね」



下を向きながらそう早口でまくし立て、俺は急いで体育館を飛び出した。
あいつが触れた頬が熱くて仕方がなくて。
あの時体育館に居なかった高尾に全ての原因を押し付け、あとで絶対殺すと誓いながら、男子トイレを目指す正直な身体はもう俺にはどうも出来ないのだった。




2012/10.28





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